研究領域 | シリア・中心体系による生体情報フローの制御 |
研究課題/領域番号 |
25113505
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
塚原 達也 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (90586413)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 運動性繊毛 / ゼブラフィッシュ / 軸糸ダイニン / PIHタンパク質 |
研究概要 |
脊椎動物の様々な器官において細胞には繊毛と呼ばれる突出した構造が存在する。中でも運動性繊毛は器官特異的なパターンで運動することで異物の除去や物質の輸送などを行っており、運動性の異常は水頭症・内臓逆位などの複合症(繊毛不動症候群 )を引き起こす。しかし、運動性を生み出すモーター分子の軸糸ダイニン(重鎖・中間鎖・軽鎖からなる)が巨大複合体を形成するメカニズムや、器官特異的運動性を生み出す仕組みについては不明である。我々は、運動性繊毛を持つ生物に保存され、軸糸ダイニンの複合体形成を制御するKtuの属するPIHタンパク質ファミリーに注目する。ヒトと同様4種のPIHタンパク質(Pih1d1, Pih1d2, Ktu, Twister)を持つゼブラフィッシュを用い、軸糸ダイニン複合体形成機構の全体像と組織特異的な運動パターンを生み出す分子基盤の解明を目指す。 平成25年度は、PIHタンパク質をコードするPIH遺伝子についてアンチセンスオリゴを用いた機能阻害を行い、発生過程で最も早く運動性繊毛が現れるクッペル胞における繊毛の運動性を解析した。その結果いずれの遺伝子の機能阻害胚でも繊毛の運動性に顕著な欠損を示した。また、軸糸ダイニンのうち、外腕ダイニン重鎖の一つDnah9について免疫染色を行ったところ全ての機能阻害胚で繊毛局在が消失していた。したがって、ゼブラフィッシュにおいて4つのPIHタンパク質はいずれも軸糸ダイニンの制御を介して繊毛の運動性に重要な役割を果たすことが示唆された。さらに、胚発生期におけるPIH遺伝子の発現パターンを詳細に解析した結果、いずれもクッペル胞、尿細管、脳室などの運動性繊毛器官において発現が検出されたが、発現の強さやタイミングについては遺伝子ごとに違いが見られた。今後は各器官におけるPIH遺伝子の発現パターンと機能阻害胚における表現型との関連を探る予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度は、アンチセンスオリゴを用いた機能阻害により、ゼブラフィッシュにおける4種のPIHタンパク質全てが繊毛の運動性に関わることを明らかにすることができた。さらに、外腕ダイニンと呼ばれる軸糸ダイニンの重笹部ユニットの一つであるDnah9について、いずれの機能阻害胚においても繊毛局在が消失していた。繊毛へのタンパク質などの輸送に異常が生じた場合、繊毛そのものが短小化したり欠損することが知られているが、PIH遺伝子の機能阻害胚においては繊毛の長さや密度には異常がなかった。この表現型は既知の軸糸ダイニン複合体形成変異体と類似しており、PIHタンパク質が軸糸ダイニンの複合体形成に寄与することが示唆される。 また、各PIH遺伝子の発現パターンの解析から、各運動性繊毛器官においてPIH遺伝子の発現強度やタイミングに違いがあることも見出している。 平成25年度には外腕ダイニンの他の重鎖や7種類存在する内腕ダイニンについての局在解析や、クッペル胞以外の運動性繊毛器官におけるPIHタンパク質の役割については研究を行えなかったが、平成26年度にそれらの解析を推進するための解析法の検討などはすでに開始しており、さらにゲノム編集技術を活用したpih1d1およびpih1d2の変異体の作製も完了したことから、初年度の結果としてはおおむね順調であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
下記①~③の研究を通じ、PIHタンパク質を介した軸糸ダイニン複合体形成機構と器官特異的運動パターンの制御機構の解明を目指す。 ①それぞれのPIHタンパク質が制御する軸糸ダイニンの同定: 各PIHタンパク質が制御する軸糸ダイニンの種類を明らかにするために、その他の軸糸ダイニンの重鎖に対する抗体作製を継続する。これまでは組換えタンパク質を用いたポリクローナル抗体の作製を行ってきたが、今年度はペプチド抗体の作製も行い、各PIHタンパク質の機能阻害下での局在パターンを解析する。さらに、複数種の軸糸ダイニンにおいて共通している中間鎖や軽鎖にも着目し、タグ付きコンストラクトの強制発現系などをも用いて解析する。まずは昨年度の解析からすべてのPIHタンパク質が運動性に関わることが明らかとなったクッペル胞に着目し、アンチセンスオリゴを用いたノックダウン胚に加えて、TALEN法を用いて作製したpih1d1およびpih1d2の変異体の解析も進める。 ②PIHタンパク質を介した軸糸ダイニン複合体形成制御機構の理解: 現在作製中の各PIHタンパク質に対する抗体を用い、ゼブラフィッシュ胚における免疫染色を行う。細胞骨格や中心体マーカーとの共染色を行うことで、細胞内での軸糸ダイニン複合体形成の場を探索する。 ③様々な組織におけるPIHタンパク質の繊毛運動性への寄与の解析: 各種機能阻害胚や変異体において、クッペル胞・尿細管・神経管・嗅上皮・耳胞などの組織において繊毛の運動性を詳細に観察する。昨年度の予備的な解析により組織毎にPIHタンパク質の寄与が異なることを示唆する結果を得ているため、今年度は高速度カメラを導入し、運動パターンのより詳細な観察を目指す。昨年度得られたPIH遺伝子の発現解析の結果と合わせることで、PIHタンパク質の組織特異的運動性への寄与を解析する。
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