公募研究
植物の一次細胞壁に存在するペクチン質多糖ラムノガラクツロナンII(RG-II)はホウ酸で分子間架橋されており、接着成分として細胞伸長に必須である。しかし、複雑な多糖であるRG-IIのホウ酸による架橋反応の分子機構は明らかではない。また、ホウ酸架橋されたRG-IIが情報分子として植物の成長を制御する可能性が示唆されている。本研究では、(1)ホウ酸によるRG-IIの架橋反応に必要な生体分子の同定、(2)「RG-II架橋率の低下がホウ素欠乏を表す指標となり、積極的な応答として成長を抑制する」仮説の検証、を目的とした。(1)では、正常な生育に高濃度のホウ酸が必要である高ホウ酸要求性シロイヌナズナ変異株の解析を行った。変異の原因遺伝子として、病原応答の負の制御因子やビタミンB6代謝に関わる酵素遺伝子が見出された。これら変異株がホウ素依存的な生育を示す報告はなく、ホウ酸が細胞壁架橋とは異なる新規の生理機能をもつ可能性を明らかにした。また、低ホウ酸条件下においてRG-IIへの優先的なホウ酸分配に働くホウ酸輸送体を同定し、RG-IIの効率的なホウ酸架橋形成を担う分子を明らかにした。(2)では、ホウ酸欠乏下での主根伸長抑制が緩和されたホウ酸欠乏低感受性シロイヌナズナ変異株を探索・単離した。原因変異のひとつとして機能未知の複数膜貫通タンパク質の機能欠損が見出された。主根伸長抑制の緩和を示す変異株の存在は、「積極的な成長抑制応答」を支持すると考察される。さらに、同様にホウ酸欠乏下で主根伸長を示すシロイヌナズナのナチュラルアクセッションの遺伝学解析を行い、既知のホウ素栄養に関わる遺伝子座とは異なる複数の遺伝子座による形質制御を明らかにした。ホウ素欠乏土壌と予想される地域由来の株であり、局所的な無機栄養環境への新たな適応機構の解明が期待された。
2: おおむね順調に進展している
「RG-II架橋率の低下が情報として体内/体外のホウ素栄養欠乏を表す指標となり、積極的に成長抑制応答を起こす」仮説の検証を目指した変異株探索では、ホウ酸欠乏条件下における主根伸長抑制の緩和を顕著に示す独立な複数の変異株の単離に成功した。ホウ酸欠乏低感受性を示す変異株の単離は初めての例である。これらの変異株の存在は「積極的な成長抑制応答」という仮説を支持するものであり、同定された原因遺伝子は成長抑制応答の正の制御因子である可能性が期待された。仮説証明に向けた植物材料の獲得に成功し、さらに原因遺伝子がこれまでに解析されていない機能未知の遺伝子であったことから、植物の新たなミネラル栄養環境応答のしくみの解明が期待された。
特にホウ酸欠乏低感受性変異株を対象として生理学的および遺伝学的な解析を進め、「RG-II架橋率の低下がホウ素欠乏を表す指標となり、積極的な応答として成長を抑制する」仮説の検証を進める。単離された変異株に対しては、細胞壁合成阻害剤に対する感受性の変化を観察し、細胞壁構造異常が引き起こす成長抑制応答に対する感受性の低下の有無を検証する。また、原因遺伝子を同定後には、発現および機能解析を進める。
すべて 2015 2014 2013
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (14件) (うち招待講演 4件)
Plant and Cell Physiology
巻: 55 ページ: 2027-2036
10.1093/pcp/pcu156
Plant Physiology
巻: 163 ページ: 1699-1709
10.1104/pp.113.225995