植物の一次細胞壁に存在するペクチン質多糖ラムノガラクツロナンII(RG-II)はホウ酸で分子間架橋されており、接着成分として細胞伸長に必須である。ホウ酸架橋されたRG-IIが細胞壁の成分であることに加え、情報分子として植物の成長を制御する可能性が示唆されている。本研究では、「RG-II架橋率の低下がホウ素欠乏を表す指標となり、積極的な応答として成長を抑制する」仮説の検証を目指し、RG-IIのホウ酸架橋による成長の制御の分子機構の解明を目的とした。 まず、ホウ酸欠乏下での主根伸長抑制が緩和・解除された「ホウ酸欠乏低感受性シロイヌナズナ変異株」を探索・単離した。EMS処理したCol-0を用い、1万2400のM2種子から22系統を単離した。原因変異のひとつが、真核生物に広く保存された機能未知のゴルジ体局在の膜タンパク質の機能欠損・発現低下であることを見出した。この変異株はペクチン修飾酵素であるPMEの阻害剤EGCGに対する感受性の低下を示し、細胞壁の構造変化に対する感受性が低下していると考察された。この結果は、ホウ素欠乏条件下において、細胞壁の構造異常に応答して根の伸長を抑制する正の因子を同定した成果と考えられた。加えて、その他の変異株の原因変異としてペクチン合成を担うと予想される酵素遺伝子群の機能欠損が見出された。架橋されたRG-IIの絶対量ではなく、相対的な架橋率が成長を決定する要因であると推察され、細胞壁構造変化が無機栄養特性の変化を起こすことが考察された。 さらに、標準系統Col-0と比較してホウ酸欠乏下で主根伸長を示すシロイヌナズナのナチュラルアクセッション2系統の遺伝学解析を行ったところ、2系統でそれぞれ異なる領域に原因遺伝子がマップされた。系統によって独立かつ既知の遺伝子座とは異なる新規の遺伝子座がホウ素欠乏耐性を制御していることを明らかにした。
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