腫瘍組織に浸潤する腫瘍関連マクロファージ (TAM)は、がん治療における重要な標的細胞である。本研究では、TAMを標的とした超音波増感剤5‐アミノレブリン酸(5ALA)、プロトポルフィリンIX (PpIX)のドラッグデリバリーシステム(DDS)の開発をおこなった。まず、マウスマクロファージRAW264.7細胞を用いた評価をおこない、5ALA封入マンノース修飾バブルリポソーム(ManBL)と超音波照射併用に比べ、PpIX封入ManBLと超音波照射併用では高い細胞障害性を示した。PpIXは、5ALAの活性代謝物であり、細胞内での5ALAからPpIXへの代謝過程が薬理効果の律速段階であると考えられたため、以後PpIXでの検討を進めた。細胞内PpIX取り込み、ならびに、細胞内活性酸素の発生は、PpIX封入ManBLに比べ、PpIX封入ManBLと超音波照射を併用することで、多くの細胞で顕著に認められた。これらの結果は、PpIX封入ManBLと超音波照射併用により、PpIXが高効率に細胞内に取り込まれ、細胞内で活性酸素を産生することで、細胞障害性を発揮していることを示唆するものである。一方、昨年度開発したドキソルビシン封入マイクロバブル(DLMBs)の担がんモデルマウスでの抗腫瘍効果を検討した。DLMBsを投与後、腫瘍へ超音波照射した群では、超音波照射無し群に比べ、腫瘍中ドキソルビシン濃度の有意な上昇がみられたが、肝臓や心臓中ドキソルビシン濃度に変化はなかった。また、DLMBsと超音波照射併用により、腫瘍増殖抑制効果ならびにマウス生存率延長がみられた。このことは、DLMBsと超音波照射併用により、マウス腫瘍部位局所での薬物取り込みを促進できる可能性を示している。これらの知見は、TAMを標的としたDDSに基づく新しいがん治療法開発において有益な基礎的情報を提供するものと思われる。
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