研究実績の概要 |
我々は、iPS細胞を介したT細胞の再生技術を用いて腫瘍微小環境の制御技術を確立することを目的として、本研究を2年間行った。過去の報告、並びにマウスモデルでの検討により(Iriguchi et al., Blood, 2014)組織微小環境に存在する免疫細胞の極性を変化させるには、微小環境に存在する抗原を認識してヘルパーI型サイトカインを十分に産生できるT細胞の供給が重要と考え、2種の抗原(腫瘍抗原、脂質抗原)を対象に、CD4陽性の抗原特異的T細胞クローンを樹立し、iPS細胞へと初期化させた。 CD4陽性細胞への分化系に関する報告が不十分であることから、諸条件の最適化に時間を要したが、遺伝子改変技術などを用いることにより、抗原特異的なTCR反応性を有する再生T細胞をin vitroで誘導することに成功した。具体的にはそれらの抗原刺激に特異的な増殖応答とサイトカイン産生を示すことを確認した。 誘導された再生T細胞は何れもヘルパーI型のサイトカインを産生する細胞であり、CD40L分子との強調によって樹状細胞の成熟を促し、下流の免疫反応をin vitroで誘導できることが明らかになった。また、再分化T細胞に特有の直接的な細胞傷害性を見出した(in preparation)。この細胞傷害活性のメカニズムは腫瘍微小環境における抑制性免疫細胞、特にMDSCの制御に関連するとの報告もあり、直接的および間接的な腫瘍微小環境の改変効果が期待される。 2年間の研究で、ヘルパーI型のサイトカインを産生する抗原特異的再分化T細胞の誘導に成功したが、微小環境in vivoモデルの開発に時間を要し、当初の目的であった効果検討にまで至らなかった。ヘルパーI型のサイトカインを産生する再分化T細胞が腫瘍微小環境モデルにおいてどのような分化転換を引き起こすことができるかを、今後の研究で評価したい。
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