近年、感染を含めた様々な細胞ストレスによって細胞老化が誘発され、がんの発生・進展に重要な役割を果たしている可能性が示されつつある。具体的には、細胞老化を起こした細胞が炎症性サイトカイン等の様々な分泌性因子を放出し、さらにこれが細胞老化を促進するという炎症反応の負のスパイラルを引き起こし、がんの進展に寄与する可能性が考えられている。本研究では、ショウジョウバエ上皮において、ミトコンドリアの機能障害とがん遺伝子Rasの活性化を起こした変異細胞が細胞老化様の表現型を呈するという研究代表者らの予備的知見に基づき、細胞老化を介した炎症反応の負の連鎖によるがん微小環境の構築原理を解明することを目的とする。 ショウジョウバエ上皮組織において、Ras の活性化とミトコンドリア機能障害を起こした変異細胞(RasV12/mito-/- 細胞)は炎症性サイトカインを放出して周辺細胞の増殖を促進する。これまでの本研究により、RasV12/mito-/- 細胞は一連の細胞老化の表現型を呈することが分かった。また、細胞老化に伴うSASP現象の誘発(炎症性サイトカインの放出)に、細胞周期停止機構が重要な役割を果たすことが分かった。平成26年度は、細胞老化表現型とSASP現象をつなぐ機構の遺伝学的解析を行い、SASP誘導に必要なJNKシグナル活性化と細胞周期停止とが互いを増幅するポジティブフィードバックループを形成することを見いだした。現在、炎症性サイトカインによる細胞老化―炎症反応の負の連鎖機構の遺伝学的解析を進めており、その分子基盤を明らかにすることでがん微小環境の構築原理の理解を目指す。
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