研究領域 | ウイルス感染現象における宿主細胞コンピテンシーの分子基盤 |
研究課題/領域番号 |
25115508
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
本田 知之 京都大学, ウイルス研究所, 助教 (80402676)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ウイルス / 核内 / 核酸 / RNA / 宿主防御 |
研究概要 |
ウイルス感染による宿主細胞への病原性発現は、ウイルスの増殖能と宿主細胞のウイルスに対する防御機構の攻防の結果である。宿主細胞のウイルスに対する防御機構は、まず宿主細胞が、ウイルスの本体である核酸分子を認識することにより活性化される。これまで、宿主細胞のウイルス核酸認識機構の研究は、細胞質で起こる反応を中心に進められてきた。一方、ウイルスの中には、細胞質ではなく核内に侵入し増殖するものも存在する。これらのうち、DNAウイルスに対する宿主の検知機構については、最近、核内DNAセンサー分子が同定された。しかし、核内で増殖するRNAウイルスに対する宿主の認識機構については、未だ手がかりすら見出されていない。 本研究では、核内環境に着目し、核内で宿主がRNAウイルスを検知する機構を、核に持続感染するRNAウイルスえあるボルナ病ウイルス(BDV)を用いて明らかにすることを目的とした。本年度、本研究において、宿主の核内RNAウイルス検出機構について以下の結果を得た。 1)BDVと相互作用することが知られている宿主分子HMGB1は、核酸認識のセンサーとしても知られている。BDV感染細胞の核よりHMGB1複合体を単離し、核酸センサー候補分子としてHMGB1 binding protein (HBP)-1, -2を同定した。 2)HBP-1は、感染細胞核内でBDVのリボタンパク質複合体(RNP)と共局在した。 3)BDV持続感染細胞で、HBP-1をノックダウンすると、BDVの転写・複製が亢進した。 4)HBP-1のノックダウンにより、宿主防御に関わる遺伝子群の発現が変化した。 以上の結果から、HBP-1が感染細胞核内で、BDV RNAのセンサー分子として働く可能性が示唆された。このように本研究は、宿主の核内RNAウイルス検出機構について当初の計画以上の成果をあげることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成25年度の研究計画では、2つの小課題を提案していた。 1つは、核内におけるBDV認識機構の解明である。本年度は、HBP-1に着目して、その核酸センサーとしての可能性を検討した。その結果、HBP-1はBDVのRNPと結合し、HBP-1ノックダウンによりBDV量が増加したため、HBP-1が核内の核酸センサーである可能性が強く示唆された。以上のことより、本小課題は当初の計画以上に進展していると考えられた。 もう一つは、核内におけるBDV制御機構の探索である。マイクロアレイを用いた解析により、BDV感染時に変化する宿主防御に関わる遺伝子群の多くは、HBP-1の下流にあることが示された。このことは、今後展開する予定のBDV制御機構の解明において基礎となる知見であり、必須である。以上のことより、本小課題についてはおおむね順調に進展していると判断した。 全体として、当初の計画より若干の変更点はあるが、大きな方向性に変化はなく、本研究の目的達成に向けて当初の計画以上に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度に得られた結果をもとにして、宿主の核内RNAウイルス検出・制御機構の作業仮説をたて、検証する。具体的には、 宿主の核内RNAウイルス制御機構のより詳細な解明と、本研究で見出した宿主の核内RNAウイルス検出・制御機構の普遍性を、インフルエンザウイルスを用いて評価すること、の2つの小課題について進める。 1)宿主の核内RNAウイルス制御機構の解明 平成25年度の成果により、「BDV RNPをHBP-1が核内で認識し、その結果宿主防御に関わる遺伝子群の発現が誘導される。誘導された遺伝子群がBDVの複製を制御する」という作業仮説が考えられる。そこで、HBP-1がウイルスRNPを認識後、どのような機構で、宿主遺伝子群を制御しているのかを検討する。そのために、HBP-1と相互作用することが知られている分子群のノックダウンを用いて、段階的にシグナル経路を明らかにしていく。またHBP-1依存的に発現誘導がかかる遺伝子群のうち、BDV複製の制御に関わるエフェクター分子を、過剰発現系およびノックダウンを用いて検討する。それらを総合して、作業仮説の検証を進める。 2)インフルエンザウイルスを用いた核内RNAウイルス検出系の普遍性評価 1)で検証する核内RNAウイルス制御機構が、核内で増殖する他のRNAウイルスにも当てはまるか検討する。核内で増殖するRNAウイルスとして、インフルエンザウイルスがある。そこで、インフルエンザウイルス感染においても、HBP-1を用いた核内ウイルスRNA認識機構が働いているのかを検討する。さらに、その下流の分子についても検討し、インフルエンザウイルスの制御機構とBDV制御機構の共通点・異なる点を明らかにする。
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