研究領域 | ウイルス感染現象における宿主細胞コンピテンシーの分子基盤 |
研究課題/領域番号 |
25115509
|
研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
奥野 哲郎 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (00221151)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | RNAウイルス / 植物ウイルス / 翻訳開始因子 / キャップ非依存性翻訳 / RNA複製 / eIF4F / eIFiso4F / ウイルス抵抗性遺伝子 |
研究概要 |
翻訳開始因子eIF4F(eIF4E+eIF4G)またはeIFiso4F(eIFiso4E+eIFiso4G)に変異を持つシロイヌナズナ変異体を用いた遺伝学的解析と試験管内翻訳系での生化学的解析を行い、Red clover necrotic mosaic virus (RCNMV)のキャップ非依存的翻訳に必要な翻訳開始因子を同定した。シロイヌナズナ植物体への接種実験の結果から、RCNMVの感染にはeIF4F及びeIFiso4Fが必要であることが分かった。シロイヌナズナ変異体プロトプラストを用いた解析から、eIF4E、eIF4G及びeIFiso4G2がRCNMVの複製に必要であることが分かった。プロトプラストでのルシフェラーゼアッセイ及び、翻訳開始因子を除いたBYLと翻訳開始因子のリコンビナントタンパク質を用いた試験管内再構成翻訳アッセイ実験から、RNA1の翻訳にはeIF4EとeIF4Gが必要であることが分かった。 一方、RNA2の翻訳については、複製タンパク質を発現するプラスミドとRNA2をプロトプラストに共接種することにより、RNA1の翻訳に依存せずRNA2の翻訳を解析出来る系を構築した。本系を用い、RNA2のキャップ非依存的翻訳にはeIFiso4EとeIFiso4G1が必要であることを示した。本結果から、RCNMVはRNA1とRNA2の翻訳に異なる翻訳開始因子を用いて翻訳を行うことにより、宿主植物への感染ステージに応じて遺伝子発現を制御していることが示唆された。 また、各翻訳開始因子変異体ではウイルスに対する感受性が低下することから、これらの翻訳開始因子遺伝子がダイアンソウイルスに対しての抵抗性遺伝子として利用できることが分かった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本申請研究の目的は大きく2つに分けられる。一つはキャップ構造とpoly(A)配列を持たない二分節のプラスセンスRNA(RNA1とRNA2)がキャップ非依存性翻訳に利用する翻訳因子の同定、もう一つは、RNA1とは異なり、RNA1が持つようなキャップ非依存性翻訳促進RNA因子(R1-3’CITE)を持たず、その翻訳活性がRNA複製に依存しているRNA2のキャップ非依存性翻訳機構の解明である。 一つ目の課題については、研究実績で述べたように、翻訳開始因子eIF4F(eIF4E+eIF4G)またはeIFiso4F(eIFiso4E+eIFiso4G)に変異を持つシロイヌナズナ変異体を用いた遺伝学的解析からRNA1はeIF4EとeIF4Gを、RNA2はeIFiso4EとeIFiso4G1を用いて翻訳すること、また、in vitroの系においてもRNA1とRNA2の翻訳活性がeIF4FとeIFiso4Fの添加でそれぞれ促進されることを示すことで、ほぼ達成できた。ただし、eIFiso4G1は通常のキャップ/poly(A)依存性翻訳に影響する可能性があり、eIFiso4G1のR1-3’CITE依存翻訳がおける役割は明らかでない。eIFiso4G1の植物細胞での翻訳における役割については今後の課題である。 二つ目の課題のRNA2のキャップ非依存性翻訳機構については、タバコ培養から調整したin vitro翻訳複製系とタグ融合移行タンパク質(MP)発現RNA2を用いてRNA2の翻訳活性が測定できるようになった。 以上述べたように、研究は順調に進んでいる。
|
今後の研究の推進方策 |
達成度で述べた二つの研究課題の一つ目の課題「R1-3’CITE依存翻訳機構」におけるeIFiso4G1の役割解明においては、タバコ培養から調整したin vitro翻訳複製系と翻訳開始因子のリコンビナントタンパク質を用いて解析研究を継続する。 二つ目の課題の翻訳活性がRNA複製に依存しているRNA2のキャップ非依存性翻訳機構については、タグ融合移行タンパク質(MP)発現RNA2(RNA2-HA)を用い、RNA2の複製とキャップ非依存性翻訳に必要なRNA領域をタバコ培養から調整したin vitro翻訳複製系とプロトプラストの2つの系において再検討する。特に、5’非翻訳領域とMPコード領域については、RNA配列とその二次構造にも着目し詳細に調べる。具体的には、RNA2-HAの様々な欠失変異体及びルシフェラーゼ遺伝子を導入した変異体を用い、翻訳活性の測定、タンパク質共免疫沈降法やRNA プルダウン法、ゲルシフトアッセイなどにより、翻訳に必要な領域、及び翻訳開始因子との相互作用に必要な領域を絞り込む。 一方、既に同定した翻訳開始因子タンパク質においてRNA1あるいはRNA2の翻訳に必要なアミノ酸領域を同定する。例えばeIF4E の場合、キャップ構造への結合に重要なアミノ酸やeIF4G との結合に重要なアミノ酸が既に動物細胞などで同定されており、それらのアミノ酸に変異を導入した場合のウイルスRNA の翻訳への影響を調べる。同様の実験をPABP、eIF4G、eIFiso4G など他の候補遺伝子についても行う。
|