研究概要 |
本年度、まず、Science領域代表の筑波大永田研究室より提供されたインフルエンザPR8株(Puerto Rico/8/1394)のRibonucleoprotein(RNP)の観察を行った。2%酢酸ウランを用いてネガティブ染色試料を作製し、加速電圧80kV、表示倍率8万倍にて画像の取得を行った。受け取った試料溶液を100mM Tris-HCl (pH8.0), 150mM NaCl, 5mM MgCl2,1mM DTTの希釈溶液で、1/2,1/4,1/8/,1/16と希釈し、それぞれについて観察を行った。先年、本申請の後に米国より報告されたNature,84,1731,2012およびNature,84,1734,2012の二報において提示されていたRNP複合体と全体として矛盾のない構造が観察された。しかし、得られた電顕像から、グリセロールによる染色の妨害が認められ、試料調整の余地が判明した。RNPの構造自体は、これまでの報告通り、屈曲したヘテロな構造をしていた。これ以外に画像の背景には、解離したと思われる、構成タンパク質の密度が多く観察された。これらからも、試料調整の再考を必要とした結果となった。また、本年度後期には、こうした不均一構造自体が機能と相関がある可能性があるため、2次元のハイブリッドアプローチによる解析を目指し、ソフトウェア、プログラムを含む環境の構築を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本計画として、当初より遅れている。これは、事前予測よりも厳しい途中結果のよるものであり、具体的には以下の理由によるものである。 通常、当研究室では、単分散性と試料の均一性が向上することから、経験的にいかなる精製されたタンパク質もネガティブ染色直前にゲル濾過クロマトグラフィーを行っている。これは、本試料のようにネガティブ染色像を劣化させてしまうグリセロールが多量に含まれている場合も有効である。しかし、RNPを構成しているRNA依存RNAポリメラーゼは、PA,PB1,PB2の三つのサブユニットからなる分子量約250kDaの複合体であり、さらにこれにウイルスゲノム結合タンパク質NP(~56kDa)の多量体が鎖状に結合しており、巨大な超分子体である。これらは通常のゲル濾過カラム用担体では排除体積相当に溶出してしまい、目的を達せするのが困難である。このため濃度の濃いグリセロールの入った原液を使用せざるおえず、単粒子解析に最適とはいいがたい電顕像しか得られなかったため、画像解析へと進むことができず、計画から遅れた。
|