公募研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
C型肝炎ウイルス(HCV)の慢性感染は致死的な肝硬変および肝癌を高率に発症する。近年、HCV蛋白質に対する極めて有効な分子標的薬が開発され慢性C型肝炎治療は大きく進歩した。しかしながら、一定の割合で治療抵抗性を示す患者が存在し、既に肝硬変を発症している患者や副作用を伴う薬剤投与に耐えられない高齢者に対する有効な治療法はない。もしも仮に患者からウイルスを排除できたとしても、肝発癌の危惧を完全に払拭できる訳ではなく、ウイルス排除後の肝癌の発生は高齢者を中心として増加している。HCVの組織特異性を決定する宿主因子として、肝臓特異的に発現しているmiR-122やVLDL関連因子の重要性が報告されている。しかしながら、これらの宿主因子がどのような機序でHCVの親和性を規定しているのかは未だ不明な点が多い。本研究では、HCVの粒子産生に関与していることが報告されている、VLDL関連因子のアポリポ蛋白質B (ApoB)、あるいはApoE遺伝子を欠損させたところ、HCVの感染性粒子は親株と同程度に産生された。そこで、ApoE欠損細胞からsiRNAでApoBの発現を抑制すると、粒子産生は顕著に抑制されることから、ApoBとApoEは相互に補完しながら粒子産生に関与していることが示唆された。次に、ApoBとApoEを同時に欠損させたHuh7細胞株を樹立したところ、粒子産生は親株に比べて約1/100に抑制され、この細胞株にApoEを発現させると粒子産生は回復した。興味深いことに、ApoBとApoEの同時欠損細胞株に他のアポリポ蛋白質を発現させたところ、ApoA1, A2, C1, C2, C3の発現で粒子産生の回復が観察されたことから、種々のアポリポ蛋白質が相互に補完しながら、HCVの感染性粒子産生に関与していることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
ApoBとApoEの同時欠損細胞に他のアポリポ蛋白質、ApoA1, A2, C1, C2, C3を発現させたところ粒子産生の回復が観察されたことは、HCVの生活環を考える上で、極めて興味深い。また、HCVの粒子産生における、ApoBやApoEの意義を明らかにすることは脂質を標的とした新たな抗HCV薬の開発につながる可能性を秘めている。今後は、miR-122や感染受容体候補分子だけでなく、HCVの侵入から出芽の各ステップに関与することが報告されている宿主因子を欠損させたHuh7細胞株を樹立し、HCVの組織親和性の決定機構をより詳細に解析したい。
miR-122に依存しないHCV複製の検討: miR-122の遺伝子欠損Huh7細胞株を用いて、HCVの感受性を評価し、miR-122非依存的なHCV-RNAの複製を明らかにする。miR-122非依存的に産生されたウイルス粒子の感染性を評価することで、感染性粒子産生におけるmiR-122の意義も検討する。miR-122によるHCVゲノムの翻訳および複製の亢進機構の解析: miR-122がHCVの翻訳および複製を亢進させるにはAgo2が重要な役割を果たしていることが報告されている。しかし、Ago2はsiRNAが機能するために必須な宿主因子であり、申請者らはAgo2の意義を検討するのにはノックアウト細胞株を樹立することが重要であると考えている。Ago2ノックアウトHuh7細胞株を用いることで、miR-122によるHCVの翻訳および複製の亢進におけるAgo2の意義を正確に解析する。
すべて 2014 2013 その他
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 4件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (9件) (うち招待講演 3件) 備考 (1件)
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http://www-yoshi.biken.osaka-u.ac.jp