研究領域 | ウイルス感染現象における宿主細胞コンピテンシーの分子基盤 |
研究課題/領域番号 |
25115518
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 独立行政法人農業生物資源研究所 |
研究代表者 |
石川 雅之 独立行政法人農業生物資源研究所, 植物-微生物間相互作用研究ユニット, ユニット長 (70192482)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | プラス鎖RNAウイルス / 進化 / 数理モデル / シミュレーション |
研究概要 |
ウイルスの宿主細胞への感染効率が低すぎれば感染の失敗が多くなる一方、高すぎれば欠損ゲノムの排除に支障をきたす。そのため「ウイルスは適切な効率で感染するように宿主細胞に適応している」と我々は考えており、本研究ではこの仮説の検証を行う。ウイルスの感染効率は、細胞に感染するゲノム数の平均(すなわちMOI)と直接的な関係にあることから、MOIに着目した。まず、ウイルスゲノムの確率的な変異でMOIが上昇または降下すると仮定し、集団レベルでウイルスのMOIがどのような値に進化するかをシミュレーションした。その結果、MOIが1~20程度のウイルスは、いずれもMOIが5前後に進化した。このことから、5前後のMOIがウイルスにとって有利であると考えられ、適切な感染効率が存在する可能性が支持された。一方、MOIが30以上のウイルスではMOIが大きくなったのち集団が絶滅したことから、MOIが大きすぎる宿主にウイルスは適応し得ないものと考えられた。この結果は、MOIが宿主と非宿主を分ける一つの要素である可能性を示す。また、MOIの決定因子としてcisに機能する遺伝子とtransに機能する遺伝子の2つを仮定し、これらがそれぞれ進化するとしてシミュレーションを行った。2つの遺伝子は当初こそMOIが5前後になるよう同調的に進化したが、ひとたび適切なMOIを実現すると、そのMOIを維持しながら、cisに機能する遺伝子はMOIを上げる方向に、transに機能する遺伝子はMOIを下げる方向にそれぞれ進化し続けた。このことから、現存のウイルスでは、cisに機能する遺伝子はMOIが上がる方向に限界まで機能が強化されている一方、transに機能する遺伝子はMOIを調整するべく機能が適度に抑えられている可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「生存戦略上有利な感染ゲノム数の数理モデルとシミュレーションを用いた検討」については、上記のように重要な作業仮説をたてることができ、十分な成果が得られたと考える。一方、MOIが異常な状態からのウイルスの進化を調べる目的で、宿主因子ARL8の発現攪乱によるMOIの操作を試みたが、うまくゆかないことが判明した。しかし、その代わりに、ベンサミアナタバコの組織内感染において、トマトモザイクウイルスのMOIが20程度と非常に大きいことを見いだすことができた。以上を総合して、概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
H25年度に行ったシミュレーションを数式により表現することで、理解の深化を目指す。また、ベンサミアナタバコにおけるトマトモザイクウイルス (ToMV) の平均感染ゲノム数が20程度であることが判明した。これを受けて、ベンサミアナタバコにおいてToMVを長期間維持すると感染効率が下がり適切な平均感染ゲノム数をとるようになったToMV変異体が優占的になるか、また、この宿主においては自己増殖能力を失った変異体が集団内に多く蓄積するかを検討する。
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