哺乳類の運動の発現には、脳幹に局在するセロトニンニューロンによる脊髄への下行性の制御が重要な役割を担っていると考えられている。本研究では脊髄運動回路内の基本的な結合がすでに形成されている新生児期から運動機能が成熟して離乳する時期の動物において、セロトニンニューロンが脊髄前角の運動ニューロンからの出力を調節している局所回路、特に歩行運動神経回路をどのように制御しているのかを明らかにすることを目的とした。野生型マウスおよびウサギ様跳躍歩行を示すキメリン欠損マウスから作製した脊髄摘出標本において、NMDAとセロトニンを灌流することで誘発される歩行運動様リズム活動において、セロトニンの濃度を変化させることによって左右の協調のタイミングもしくはリズムの周波数が変化することを見いだした。さらに計算論的手法を用いて誘発されたリズムの際の運動ニューロンへの興奮性および抑制性シナプスの入力様式を推定した。この結果は第44回北米神経科学会において学会発表を行なった。また、脳幹のセロトニンニューロンの活動を光によって制御し、脊髄の局所回路をどのように調節しているのかを調べるために、トリプトファンヒドロキシラーゼのプロモーターによってチャネルロドプシン変異体を発現するマウスを導入した。このマウスの新生児の脳幹-脊髄摘出標本を用いて頸髄あるいは腰髄の運動ニューロンからパッチクランプ記録を行い、延髄網様体の腹側に位置するセロトニン細胞体およびその下行性線維の光刺激によって5-HTニューロンを興奮させたときの効果の解析を進めている。
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