ヒトを含む生物は老化に伴い記憶が低下するが、その分子メカニズムはまだ解明されていない。モデル系としてショウジョウバエの嗅覚記憶を用いて、加齢脳におけるメゾ回路機能障害を詳細に解析することで、老化に伴う記憶低下メカニズムの解明を目指す。 1.老化に伴う記憶低下の原因となるメゾ回路機能障害の同定 ハエの嗅覚記憶は学習から数分間持続する短期記憶、数時間持続する中期記憶、数日持続する長期記憶と時間軸に分けて主に三段階に分けられる。私たちは、これまでに中期記憶の加齢に伴う低下に着目して、DPM神経における中期記憶メモリートレースの低下が老齢個体における中期記憶の低下を引き起こす原因の一つであることを示唆してきた。今年度は、1)タンパク質合成依存的な長期記憶も加齢に伴い低下すること、2)キノコ体神経細胞で見られる長期記憶メモリートレースが加齢に伴い低下することを見出した。 2.加齢脳におけるメゾ回路の人工的活性化・遮断 加齢脳におけるメゾ回路の一部を人工的に活性化・遮断させることによって、老化に伴う記憶低下への影響を検証する。1)若齢脳のDPM神経細胞を時期特異的に人工的に遮断することで長期記憶が低下することより、DPM神経細胞がタンパク質合成依存的な長期記憶の形成に必要であることを見出した。2)老齢脳のDPM神経細胞を人工的に遮断しても長期記憶が低下しないことを見出した。すなわち、DPM神経細胞の機能低下によって加齢にともなうタンパク質合成依存的な長期記憶が低下していることを示唆した。
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