嗅覚に基づく行動の多くは強い情動によって駆動されるがその神経回路機構は不明である。我々は、匂いと報酬の連合学習に基づくマウスの匂いに対する誘引行動時と、匂いと侵害刺激の連合学習に基づくマウスの匂いに対する忌避行動時において、嗅皮質の一領域である嗅結節の異なるドメインが活性化することを見出した。嗅結節はドーパミン投射を受ける腹側線条体でもあり、情動行動との関連が強く示唆される。本研究はこの嗅結節ドメインを嗅覚情動行動の機能単位と考え、その回路構築と機能を理解することを目的とした。本研究により以下のことが明らかとなった。 ・嗅結節の主要ニューロンであるmedium spiny neuron(MSN)は、1型ドーパミン受容体発現MSN(D1MSN)と2型ドーパミン受容体発現MSN(D2MSN)によって構成されていた。 ・最初期応答遺伝子c-fos mRNAの発現解析から、匂いに対する誘引行動時には嗅結節前内側ドメインのD1MSN が、匂いに対する忌避行動時には外側ドメインのD1MSNが活性化することを見出し、嗅覚情動行動のタイプに応じて嗅結節のドメイン特異的、細胞種特異的な活性化がおこることを明らかにした。 ・また、匂いに対する忌避行動時には前内側ドメインのD2MSNも活性化することから、ドメイン内でのD1MSNとD2MSNの相互作用による情動行動の調節機構の存在が示唆された。 ・イムノトキシンを用いてマウス嗅結節前内側ドメインD1MSNを除去したところ、状況変化に対応した匂いに対する誘引行動の変化が起こりにくいことが観察され、前内側ドメインD1MSNが誘引行動の適正化に重要であると考えられた。 ・嗅結節の生後発達を検討し、ちょうど新生仔の離乳期に嗅結節の発達が進み、固形餌摂食時に活性化し始めることを見出した。個体の新しい食べ物の学習に嗅結節が重要であることが示唆された。
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