研究領域 | メゾスコピック神経回路から探る脳の情報処理基盤 |
研究課題/領域番号 |
25115713
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
小田 洋一 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (00144444)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 後脳 / 分節構造 / マウスナー細胞 / 網様体脊髄路ニューロン / 発火特性 / 低閾値型カリウムチャネル |
研究実績の概要 |
硬骨魚の後脳の隣接する分節には、形態や発生時期が似た網様体脊髄路(Reticulospinal neurons, RS)ニューロンが繰り返し存在する。本研究ではそれら相同RSニューロンの機能的な分化と相互のシナプス結合について、以下のような知見を得た。 1.M細胞は発生初期には他のRSニューロン群と同じように連続発火を示すが、ゼブラフィッシュが聴覚に応答し始める受精後3日以降発火特性を大きく変えることを見出した。さらにその分子基盤には2つの低閾値型カリウムチャネルの発現が重要であることを明らかにした。M細胞とその相同ニューロンには、低閾値型カリウムチャネルのKv1.1サブユニットが同じように発現するが、その補助サブユニットであるKvβ2が単発発火する時期のM細胞に特異的に発現することを見出し、それら2つのサブユニットの組み合わせがM細胞特有の単発発火に必要であることを示した。アフリカツメガエル卵母細胞を用いた再構成実験の結果、KvβサブユニットはKv1.1チャネルの膜表出を促進させて低閾値型カリウムチャネルを介する外向き流を増大させることを見出し、この外向き流が連続発火を抑圧して単発発火を導くと結論した。 2.M細胞と第5、6分節のRSニューロンとのシナプス結合様式をゼブラフィッシュと同じRSニューロン群を持つキンギョで調べ、以下の知見を得た。(1)M細胞からそれらのRSNsへ一方向の結合がある、(2)背側に1対ずつ存在するMiD群への結合は、M細胞から同側のMiD細胞には抑制性、反対側のMiD細胞には興奮性の結合が存在(例外は両側とも抑制性結合を受ける第5分節のMiD2cm)、(3)腹側にクラスターをなして存在するMiVには両側に強い興奮性結合が存在する。以上の結果から、逃避運動を制御するRSニューロン群の回路構成を議論した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
形態学的に相同で同じ時期に生まれるM細胞とその相同ニューロンのうち、M細胞だけが特異的な単発発火特性を示す分子基盤については長らく謎であったが、発火特性を左右する低閾値型カリウムチャネルのうち、Kv1.1チャネルのαサブユニットについては相同ニューロン間で同じように発現しながら、それを修飾するβサブユニットの特異的な発現がM細胞の興奮性を決定するという知見は、相同ニューロンの機能的分化の分子基盤を明確に示した。さらにもう一つの低閾値型カリウムチャネルであるKv7.4の発現も見出され、M細胞の特別な興奮性については決着がついたと言える。また、ブラインド記録による2細胞同時記録の地道な成果によって、第4~6分節のRSニューロン間の結合を全て示すことができ、しかも形態学的相同性に従った結合様式を見出し、分節構造に基づいたニューロンの機能的分化と機能的結合の実体を明らかにすることが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
1.Kv7.4チャネルの発現がM細胞の発火特性に果たす役割を解析し、論文にまとめる。 2.M細胞の膜特性の他に発火特性に大きく寄与する反回性抑制回路について、その介在ニューロンを中心に研究を進める。
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