硬骨魚の後脳分節に存在する網様対脊髄路ニューロンを対象にして,その機能的な分化と相互の機能的な結合を電気生理学的・形態学的・分子生物学的に解析した.隣り合う分節には同じ形態学的特徴をもつ相同ニューロンが繰り返される.もっとも大きくなマウスナー(M)細胞とその相同ニューロンは同じように感覚入力を受けながらまったく異なる興奮性を示す.その原因は2つの低閾値型カリウムチャネルがM細胞に特異的に発現すること(J. Neurophysiol. 2014)と,興奮して活動電位を発生した後に自身を強く抑制する反回性抑制回路がM細胞のみに形成されることを見出した.その反回性抑制回路を中継する介在ニューロンも後脳の後部に繰り返されるT型網様体ニューロンの一部であることを明らかにした.M細胞はアセチルコリン作動性ニューロンであるために,ホールセル記録時に体を不動化する目的で通常使用する筋弛緩剤はM細胞のシナプス伝達も阻害し,M細胞とターゲット・ニューロンの結合を生理学的に調べることができない.そこで本研究では,運動指令が出ても筋が収縮しないゼブラフィッシュ変異体(nacre)を電気生理学的実験に用いた. さらに,M細胞と他の網様体脊髄路ニューロンの間には,形態学的相同性を反映したシナプス結合様式が存在し,M細胞を頂点とする機能的なモチーフ回路を形成していることを明らかにした(J. Neurosci. 2014).加えて,M細胞と他の網様体脊髄路ニューロン群との間で形成されるモチーフ回路の中継ニューロンは異なるT型網様体ニューロンに含まれることが示唆された. 以上のように,本研究では脳の基本的構造の一つである分節に繰り返される形態学的に相同なニューロン群から,異なる興奮性を持つニューロンが生まれる仕組みと相同ニューロン間の興味深い回路構成を見出した.
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