公募研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
神経細胞は個性をもちながら複雑な神経回路をつくり、集団として活動している。本研究では、約50種類の遺伝子がゲノムDNA上に存在するクラスター型プロトカドヘリン(cPcdh)遺伝子に着目して、メゾ神経回路形成機構を明らかにすることを目標としている。本年度は、cPcdh遺伝子群の発現に関わるDNAメチル化制御メカニズムの解析を行った。その結果、神経細胞の幹細胞が生まれる以前のマウス胎生3日目から9日目にかけて、メチル基転移酵素Dnmt3bがcPcdhプロモーター領域のメチル化パターンを形成することを明らかにした。このDnmt3bを欠損したマウスは胎生致死となるため、Dnmt3b欠損マウスからiPS細胞を樹立し、野生型胚とキメラマウスを作製することにより、Dnmt3bを欠損した神経細胞におけるcPcdh遺伝子群の発現パタンを解析した。野生型のプルキニエ細胞では細胞ごとに異なるcPcdh遺伝子がランダムに発現していたのに対し、個々のDnmt3b欠損プルキニエ細胞ではcPcdh遺伝子の発現確率が増大し、すべてのcPcdh遺伝子を発現している細胞が観察された。また、小脳にあるプルキニエ細胞の形態を解析したところ、野生型細胞に比べDnmt3b欠損細胞では樹状突起の重なりが多く認められ、Dnmt3bが樹状突起のパターン形成に必須であることが明らかになった。これらの結果により、発生初期のDnmt3b依存的なDNAメチル化は個々の神経細胞におけるエンハンサー依存的なcPcdh遺伝子群のランダムな発現を制御し、神経細胞の個性化や精緻な回路形成に重要であることが明らかになった(Toyoda et al., Neuron 2014)。
1: 当初の計画以上に進展している
個々の神経細胞のつくる神経回路形成メカニズムを明らかにする為にcPcdh遺伝子群に注目して、マウス脳を用いたアプローチを行っている。本年度は、個々の神経細胞でランダムな組み合わせ発現をするcPcdhの発現機構の詳細を明らかにすることができた。すなわち、Dnmt3bが発生初期のDNAメチル化に特異的に関わることを明らかにし、また、このDnmt3b欠損マウスが胎生致死になることから、Dnmt3b欠損のiPS細胞株を樹立して、Dnmt3bが個々の神経細胞におけるcPcdh遺伝子発現にどの様な影響を与えるのかを明らかにした。これらの結果は、当初の達成度を超えた研究成果である。
本研究では、個々の神経細胞におけるランダムな組み合わせ発現機構にCTCF、Dnmt3bが関与していることを明らかにしてきた。今後は、cPcdh遺伝子の1アイソフォームの発現をin vivoで可視化できるノックインマウスの作製を試みる。このノックインマウスを用いて、cPcdhアイソフォームのランダムな発現を、1)発達過程での変化、2)細胞系譜との関係、3)局所回路との関係、4)神経活動における刺激選択性との関係において明らかにする。これにより、cPcdhのランダムな発現とメゾ回路形成機構との関連性が明らかになる。
すべて 2014 2013 その他
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 4件) 備考 (1件) 産業財産権 (1件) (うち外国 1件)
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