研究領域 | メゾスコピック神経回路から探る脳の情報処理基盤 |
研究課題/領域番号 |
25115722
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
八木 哲也 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50183976)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 網膜 / シリコン網膜 / アマクリン細胞 / 視神経 / 一過性応答 / スパイクタイミング / 自然画像処理 / マシンビジョン |
研究概要 |
本研究の目的は、まず網膜神経回路の特徴的局所回路の構造を反映し、かつミリ秒オーダーのスパイク発火精度を再現する脳型集積視覚システム(人工眼)を作成し、この人工眼を用いて自然視覚環境における網膜神経回路(特に網膜の高次介在細胞であるアマクリン細胞の神経回路)の入出力関係について実時間で再現実験を行い(仮想in vivo実験)、これに対応する視神経の活動電位が自然画像のどのような特徴を抽出するか、またその特徴抽出に関わるアマクリン神経回路の構造はいかなるものか、を明らかにすることである。平成25年度においては、このin vivo 実験を網膜神経回路の時空間特性を十分再現する精度で実行するためのシステムの作成を行った。具体的にはまず、網膜神経回路の光電変換を含むアナログ緩電位応答を再構成するための基本神経回路をField Programmable Gate Array (FPGA) を用いて作成した。続いて網膜神経回路の出力細胞である視神経のスパイク発火タイミングをミリ秒オーダーの精度で、実時間で再現するためにIshikevichのモデルおよび同じA03班の小林博士のモデルを同じくFPGAを用いてシステムに組み込んだ。さらに本研究が解明すべき網膜メゾ神経回路のターゲットとしている一過性On-Offアマクリン細胞回路のプロトタイプモデルを作成し、過去の単純図形を用いた生理学実験から得られた応答をよく再現することを確認した。前半のアナログ緩電位応答回路に関する成果は、4件の国際会議(内1件は連携研究者招待講演)において発表し、IEEE Transactions on Biomedical Circuit and Systemsに投稿し受理された。また後半の視神経の活動電位を再現するシステムについては、国内学会で3件の発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成25年度の研究計画では、①網膜の出力である視神経活動電位を十分な精度で再現する人工眼システムの開発、②今回解明すべきメゾ回路としてターゲットしているアマクリン細胞回路をシステムに組み込む、③アマクリン細胞応答を活動電位に変化する視神経のモデルとしてIshikevichのモデルをシステムに組み込む、ことが目標であった。研究実績の概要で示したとおり、①の目標に関しては、200フレーム/秒のフレームサンプリングを行い、これを5ms 以内の精度でスパイクに変換するためのハードウエアを、FPGAを用いて実現した。さらにその成果の一部をまとめて工学系の論文誌としてインパクトの高いIEEE系の雑誌に投稿し受理されたことから、当初の計画以上の進展があったと判断できる。②の目標については、まだ多少の細かい点の変更を必要とするが、見通しは十分にたっているので、当初の目標はほぼ達成されていると考えてよい。さらに③についても、当初から予定していたIshikevichのモデルに加え、同じA03班の小林博士のスパイク生成モデルを組みこむことができ、領域内の共同研究としても、領域参加一年目としては予想以上の進展があった。以上の成果を総合して、(1)当初の計画以上に進展している、と自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画に沿って以下の方針・方策で今後の研究を進める。平成25年度に開発した人工眼システムを用いて、自然視覚環境下において網膜の入出力を実時間シミュレーション解析し、一過性On-Offアマクリン細胞の機能と対応する回路構造について、特に眼球運動との関連で解明する。より具体的にはここで次に述べる研究方策を取る。①まず液晶ディスプレイ(LCD)を用いて、生理学実験で頻繁に用いられるランダム画像を人工眼に提示し、人工眼の一過性On-Off視神経から出力されるスパイクから、逆相関法によって受容野を計測する。この受容野は、十分な計測時間を取れば応答は平均化され、従来の剥離網膜を用いた生理学実験で得られた受容野と基本的に同じであるはずである。このことを確認した上で、同様にLCDを用いて自然画像を人工眼に繰り返し提示し、画像のどの部分がスパイクと相関を持つかを解析する。ここで得られた特徴と、上記①で得られた受容野を入力画像で畳込んで得られる特徴を比較検討する。これらの特徴、すなわち前者の自然画像を処理するときの視神経の受容野と、後者の従来の生理学実験で予測された受容野は異なる可能性が大きい。この違いにアマクリン細胞の機能に関する新しい知見が現れていると考えられる。さらに上記の①、②の実験と解析を、モデルのアマクリン細胞間のギャップ結合の非線形パラメータを変化させなら繰り返す。以上から③人工眼に眼球運動を模倣した動きを加えたときの視神経細胞の活動電位のタイミングや相関が、どのような情報をコードし得るかを解明考察し、メゾ神経回路としてのアマクリン細胞回路が視覚情報処理に果たす役割を考察する。最後に考察から得られた新しい視覚情報処理機構、コーディング原理をマシンビジョンとして応用する方策を考える。
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