動物は、経験に基づいて様々な情報を記憶として保持している。刻々と変化する環境に適応するためには、記憶を適切な時間だけ保持することが必要である。我々は、線虫をモデルとした分子遺伝学的解析と感覚ニューロンのイメージングとを組合せ、忘却を制御する分子神経回路メカニズムを明らかにすることを目的として研究している。 本年度は、我々が同定した忘却を制御する経路の下流因子と考えられる、記憶を忘れにくい変異体を用いて、解析を進めた。まず、次世代シークエンサーによって得られた塩基配列データに基づき、変異体と野生型との掛け合わせによりマッピングを行い、原因遺伝子の候補を数遺伝子に絞ることに成功した。つぎに、それらの原因遺伝子候補を変異体に導入することにより表現型の回復を調べることとしていた。 本年度は、さらに忘却を制御する経路の下流因子として、記憶を忘れにくい変異体の抑圧変異体(記憶を忘れやすくなった変異体)の探索もすすめた。AWCニューロンが正常に分化しない変異体では、記憶を忘れにくくなっている。この変異体の抑圧変異体を単離・解析することによって、AWCニューロンの下流において忘却を制御する因子を同定できると考えている。まず、変異体スクリーニングために行動測定系を改良し、記憶を忘れやすい変異体を効率的に濃縮する方法を開発した。 これらの結果は、今後忘却を制御する神経回路を同定する基盤として重要であると考えられる。
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