研究領域 | メゾスコピック神経回路から探る脳の情報処理基盤 |
研究課題/領域番号 |
25115729
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
松井 広 東北大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (20435530)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 脳科学 / グリア細胞 / カルシウム / 細胞内イオン濃度 / 光遺伝学 |
研究概要 |
脳の中には二つの回路がある。ひとつは神経回路で、神経細胞間を信号が次々と伝わることで、心の機能が成立している。一方で、脳の容積の大半を占めるグリア細胞も、信号を伝え合う。本研究では、神経回路とグリア回路の間の交錯過程を調べる。これまで本研究者は、グリアの活動を光制御できるツールを開発し、グリアの発する信号を神経が受け取ることを示してきた。本研究では、このちょうど逆の過程、実際の動物の行動や神経の活動が、どのようにしてグリアに伝わるのかを明らかにすることに取り組む。本研究では、生きているまるごとの(in vivo)動物のグリアを、できるだけ損傷を与えない(低侵襲)状態で観察し、グリアの担う信号を調べることに取り組む。 平成25年度においては、生体から取り出した小脳および網膜標本を用いて、神経活動がどのようにして、グリアまで伝達されるのかを調べた。これまで本研究者は、小脳平行・登上線維からバーグマングリア細胞に面した箇所で、異所的にグルタミン酸の放出が生じ、バーグマングリアのAMPA受容体を活性化することで、神経からグリアへのミリ秒単位の素早い信号伝達を可能にしていることを示してきた。引き続き、グリアには秒単位のゆっくりとした応答が起こるが、これは神経から放出されたATPに対する反応であると見られている。同様に、網膜のグリア細胞、ミューラー細胞からもATPに対するCa2+応答が記録されている。しかし、どの神経細胞からATP放出が起きているのか、どのようなメカニズムで放出がおきているのか、これまで見当がついていない。そこで、小脳分子層では星状細胞にのみ作用するNMDAを局所投与したところ、グリアに大きなCa2+応答が引き起こされることが明らかになった。網膜標本においても、同様の観察をした。ATPに依存した二つ目の経路に関して、その詳しい機構や機能的な意義を解析していきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
グリア細胞の担う信号として、細胞内pHに注目し、細胞内pHを測定した研究をNeuron誌に発表した。特に細胞内pHが極端に酸性化する事例として、脳虚血におけるグリア細胞の反応を主にフォーカスした実験を行ったが、これをきっかけにして、生理的条件下でのグリア細胞内pH変化の程度を推定していきたい。また、これまでは小脳急性スライス標本を使ってイメージング条件等を検討していた。これまでの知見を利用して、in vivoイメージングの方法を確立していく必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
グリアの担う信号は、神経細胞とは異なり、主として電気生理学的に測定されるとは言えず、細胞内イオン濃度変化で表現されるものが多い。これまで、神経刺激によって惹起されるグリア細胞の反応を主にCa2+応答という形で計測してきたのだが、最近の我々の研究により、グリア細胞内のpHが、グリア細胞機能にとって重要であることが分かってきている。しかし、生理的な条件下で、どの程度のpH変化が見られるのかが明らかでない。そこで、グリア細胞内pHイメージングにも挑戦している。これには、発現を特定の細胞種に絞りつつ、目的とするセンサータンパク質を高発現させる仕組みを利用する(KENGE-tetシステム)。pHに関しては、過剰な神経活動にともなって放出されるグルタミン酸を回収する際に、グリア細胞内が酸性化される可能性を検討する。さらに、本年度では、急性スライス標本でのCa2+およびpHイメージングを確立した後に、in vivoでのイメージングにも取り組む。神経・グリアの形成する相補的な回路を理解することで、脳のメゾ回路の実態を解明する。本研究を通して、心に占めるグリアの役割が明らかになれば、グリアをターゲットにした心の病等に関する医療技術の開発も視野に入ってくると考えられる。
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