本研究は、脳の高次機能を担う大脳皮質の多様な投射先に対応した情報処理様式を理解することを目標としている。本研究では、投射先に対応した5層錐体細胞サブネットワークと電気的に結合したFast-spiking (FS) 細胞ネットワークがどのように相互に活動を制御しているのかを明らかにすることを目的としている。昨年度は、子宮内電気穿孔法を用いてラット前頭皮質の2/3層錐体細胞にチャネルロドプシンを発現させ、5層の細胞において光刺激によって誘発されるオシレーション活動についてスライス標本を用いて解析した。本年度は、オシレーション活動の機構についてスライス標本と回路モデルを用いてさらに検討した。その結果、相互相関解析から膜電位の振動は錐体細胞間や錐体/FS細胞間において周期的に同期していたが、錐体/FS細胞間では時差がみられ、錐体/FS細胞間の相互的なシナプス結合によってオシレーション活動が発生していることが示唆された。また、オシレーション活動を示す錐体細胞は投射先に依存していた。FS細胞はギャップジャンクションを介した電気結合をしており、サブネットワークを形成している。ギャップジャンクションの阻害剤を用いてFS細胞間の電気結合のオシレーション活動への影響を検討した結果、オシレーション活動の発生にFS細胞間の電気結合が寄与していることもわかった。錐体細胞とFS細胞をそれぞれモデル化し、実験で得られた結果を用いて錐体細胞サブタイプ群とFS細胞から構成される回路モデルを作成した。回路モデルにおいてもオシレーション活動を誘発することができ、スライス実験で示唆されたオシレーション活動の発生機構によって説明することができた。以上の結果は、特定の錐体細胞サブタイプとFS細胞によって皮質回路においてオシレーション活動を形成することを示唆する。
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