研究領域 | マイクロエンドフェノタイプによる精神病態学の創出 |
研究課題/領域番号 |
25116509
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
橋本 隆紀 金沢大学, 医学系, 准教授 (40249959)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 脳神経疾患 / 死後脳研究 |
研究概要 |
統合失調症の大脳皮質では、周期性皮質活動γオシレーションの形成を担うパルブアルブミン陽性の介在ニューロンの機能変化が、認知機能障害に関与していると考えられる。カリウムチャンネルサブユニットKv9.3は、健常者の前頭前野ではパルブアルブミン陽性ニューロンに選択的に発現しγオシレーションの形成に関わる。我々は、本プロジェクト開始前までに、Kv9.3 mRNAの発現レベルが統合失調症の前頭前野において低下していることを見出していた。 本年度は、性別・年齢などがマッチした健常対照例と統合失調症の14対から得られた前頭前野組織切片において、細胞外基質であるPeriNeuronalNetの抗体染色を基準にして、パルブアルブミン陽性ニューロンのみをLaser Capture Microdissection法を用いて切り出し、各症例ごとにマイクロアレイによる遺伝子発現データを得た。このデータから、Kv9.3 mRNAの発現は統合失調症で有意に低下していること、Kv9.3と結合するKv2.1サブユニットのmRNAの発現もKv9.3 mRNAと有意に相関する形で(r=0.5, p=0.007)減少していることが判明し、前頭前野のパルブアルブミン陽性介在ニューロンにおいてKv9.3とKv2.1サブユニットからなるカリウムチャネルが減少していることが示唆された。 また、健常対照者4例から得られた一次視覚野の切片において、Kv9.3とパルブアルブミンのmRNAの同時検出dual-label in situ hybridiation法にて行った。標識細胞2474個の解析の結果、一次視覚野では、Kv9.3 mRNA発現細胞の94%がパルブアルブミンを、パルブアルブミン陽性ニューロンの96%がKv9.3 mRNAを発現していることが判明した。以上より、一次視覚野でもKv9.3はパルブアルブミン陽性ニューロンに選択的に発現していることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Laser Capture Microdissetcionによるパルブアルブミン陽性ニューロンのみのサンプルを用いてKv9.3ならびにKv2.1の発現定量に成功した。これによりKv9.3の発現がパルアルブミンニューロンで生じていることを直接示すことができた。このマイクロアレイデータはは、今後とも統合失調症の前頭前野パルブアルブミン陽性ニューロンにおける遺伝子発現の解析に有用と考えられる。 当初の予定では、一次視覚野を含む複数の領域でKv9.3 mRNAとパルブアルブミンの発現を別々にin situ hybridization法で検出し、発現パターンを比較する予定であった。しかし、前頭前野ではKv9.3 mRNAをパルブアルブミン mRNAの発現量が大きく違うことで発現パターンにも相違が認められ、発現パターンのみの比較ではKv9.3のパルブアルブミン陽性ニューロンに選択的な発現の確認は難しいと考えられた。そのため、dual-label in situ hybridization 法を導入し、一次視覚野でもKv9.3 mRNAがパルブアルブミン陽性ニューロンにほぼ特異的に発現することを示すことができた。連合野である前頭前野に加えて一次知覚野でもKv9.3 mRNAのパルブアルブミン細胞における選択的発現が確認されたことで、この発現パターンが機能の異なる皮質領域に共通していると考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、性別・年齢・死後経過時間がマッチした健常対照例および統合失調症例の20対から得られた死後脳組織の一次視覚野からRNAサンプルを抽出し、real-time PCRにて統合失調症における発現変化の有無について確認する。 さらに他の皮質領域でも、dual-label in situ hybridization法によるパルブアルブミン陽性ニューロンに選択的なKv9.3発現の確認と、統合失調症における変化の評価を行ってゆく予定である。
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