研究領域 | マイクロエンドフェノタイプによる精神病態学の創出 |
研究課題/領域番号 |
25116510
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
戸田 重誠 金沢大学, 大学病院, 講師 (00323006)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 精神疾患 / 酸化ストレス / グルタチオン化タンパク質 / in situ検出法 |
研究概要 |
平成25年度は、以前報告されたin situグルタチオン化タンパク質(PSSG)検出法を脳組織で再現できるか検討を行った。PSSGの増加が予想された条件下でラット脳を4%パラホルムアルデヒドで灌流固定し、脳切片をフリーのSH基をNEMでブロックした後、Glutaredoxin 1(Grx1)でグルタチオン化したシスティン基を還元化した後にN-(3-maleimidylpropinyl)biocytin(MPB)でラベリングし、Steptoavidin-FITCでシグナル検出を試みた。しかし対照実験と比べ有意なシグナル増強は確認されなかった。また切片上でPSSGを誘導するチオール基酸化剤diamideの添加実験でもシグナルは確認されなかった。原因として①灌流固定の段階で強い還元作用を持つホルマリンにより脱グルタチオン化が起きた、②チオール基がホルマリン架橋の結果全てS-S結合に置換され、Grx1やMPB、diamideの作用部位が失われた、などが考えられた。一方、酸化ストレスが成熟ラットの認知行動に与える影響について、薬理学的に一過性に酸化ストレスを誘導するCHXを急性あるいは慢性投与し、意欲、行動の習慣化、逆転学習、コカインに対する反応性、及び強制水泳への影響を検討した。その結果、CHXの慢性投与は意欲には影響を与えなかったが、強制水泳ではCHX投与群で無動性が抑制され、抗うつ剤様の効果を示した。また慢性CHX投与群は急性コカイン誘発性の行動を抑制した。さらに各行動あるいは認知指標間の相関関係について検討したところ、複数の指標間で慢性CHX投与後に相関関係の変化が観察された。従ってCHXは必ずしもそれ自体で精神病様表現型、あるいは抗うつ剤様効果を模倣しないが、全体として脳機能のバランスを変化させると考えられた(投稿中)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上記のようにin situグルタチオン化タンパク質検出法の動物脳での確立は当初の予定と異なり、やや難航している。一方、酸化ストレスそのものの成熟ラットの行動及び認知機能、病的行動への影響に関する検証は十分な進展があり、今後もさらなる発展が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
in situグルタチオン化タンパク質検出法に関しては、今年度は前年度の問題点を解決するため、灌流固定用PBSに予めNEMを添加して早い段階でフリーのSH基をブロックしてしまうとともに、ホルマリン固定を避け、他の固定法での切片作成を準備中である。また、最近抗グルタチオン化タンパク質抗体が市販され、免疫組織染色でも使用可能と報告されたため(Rodriguez-Rocha et al, Anotioxidants & Redox Signaling, 2012)、これとの比較を上記動物およびCHX慢性投与動物を用いて行う。この際、以前から課題とされていた同抗体がフリーの組織内グルタチオンを認識してしまう問題を避けるため、上記のようにNEMによるフリーSH基のブロックと同時に、固定後の切片におけるperoxidase活性を失活させることで、固定後も組織内でフリーのグルタチオンが産生されることを防止する。酸化ストレスそのものの成熟ラットの行動及び認知機能への影響の検証については、行動と相関するタンパク質変化について側坐核で検討中である。また、酸化ストレスが大脳基底核や中脳、前頭前野におけるカテコラミン神経の投射パターンを変化される可能性について、各神経投射系に特異的な分子マーカーを用いた免疫組織学的解析を現在行っており、この結果をまとめていく。さらに慢性CHX投与と精神刺激薬コカインの慢性投与を同時に行った行動実験を現在行っており、コカインの単独慢性投与の場合と異なる表現型が既に幾つか確認されたため(投稿準備中)、その基盤となる分子メカニズムについても解析を進めて行く。
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