グリア細胞が脳の情報処理・発信を制御していることが明らかとなり、脳機能は「神経-グリアネットワーク」コミュニケーションとして捉えられるようになった。従って、本ネットワークの変調は、脳の機能変調、特にシナプス伝達の変調や神経細胞の基礎活動性に影響すると考えられ、これは顕著な神経変性や神経細胞死を伴わない精神疾患の分子病態との関連性を強く示唆する。実際、うつ病や統合失調症患者の死後脳のトランスクリプトーム解析、プロテオーム解析では、グリア関連分子の変動が上位に並ぶ。さらに動物実験ではグリア細胞を阻害すると、抗うつ薬が奏功しないことも示された。神経-グリアネットワークのコミュニケーション変調と、精神疾患等各種脳疾患の分子病態は密接に関連すると考えられるが、両者の関連性の多くは不明のままである。その大きな理由は、神経とグリア細胞(アストロサイト及びミクログリア)がコミュニケーションを行うインターフェース「ペリシナプスグリア」の1. 可視化・機能解析技術、2. グリア伝達(グリア細胞による化学情報伝達)を精密に制御する技術、が欠如していたからである。本研究は、それぞれ1. 「膜移行型Ca2+プローブGCaMP3」によるペリシナプス機能解析、2. FASTシステムによる細胞種・時期特異的「グリア伝達制御」、の2つの新技術により、この問題に応えるものである。 本年は、上記2の解析を行い、グリア性マイクロエンドフェノタイプとして、アストロサイトのATPグリア伝達の低下がうつ病の分子病態とリンクしていることを見出した。また、抗うつ薬の標的としてアストロサイトが重要で有ること、抗うつ薬がアストロサイトのグリア伝達を亢進させることが、抗うつ作用と関連していることを明らかとした。
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