研究実績の概要 |
ストレスが抑制性GABA作動性神経の機能を障害し、脱抑制により興奮性神経系の活動が亢進することが精神疾患発症の要因の一つと考えられているが、その分子機構は明らかではない。我々は (a) GABA神経発達に関わる転写因子Npas4がグルココルチコイド(GC)により転写抑制を受けること、(b)NPAS4がCdk5の誘導を介して培養神経細胞の神経突起伸長を促進すること、(c) Npas4遺伝子欠損(Npas4-KO)マウスがストレス誘発性行動異常に類似した認知・学習記憶障害(プレパルス抑制の障害、海馬依存性恐怖記憶障害)を呈することを明らかとした。従って、ストレスによるNpas4発現低下がGABA神経障害を誘発し、認知障害などの精神症状(エンドフェノタイプ)の発現に関与している可能性がある。平成26年度は、難治性てんかんモデルであるペンチレンテトラゾール(PTZ)誘発キンドリングモデルにおけるNPAS4の役割を解析し、以下の結果を得た。(1) Npas4-KOマウスではPTZ誘発性キンドリングの形成が促進される。(2) 野生型マウスではPTZ処置により海馬のNpas4, BDNF, c-Fos, Homer1a mRNAレベルが増加する。(3) PTZ処置により海馬神経細胞でHomer1タンパク質が誘導される。(4) Npas4-KOマウスではPTZ処置してもHomer1a mRNAレベルは増加しない。(5) Homer1a遺伝子上流にNPAS4応答エレメントが存在し、NPAS4によりHomer1aプロモーター活性が上昇する。以上のより、NPAS4の標的遺伝子であるHomer1aは神経保護的に作用し、海馬神経細胞の興奮性制御に関与していることが示唆された。その他、Npas4-KOマウスの行動異常のうち、プレパルス抑制の障害は遺伝子欠損の直接的効果ではないことが示唆された。
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