社会性行動の異常は様々な精神疾患に見られる表現型であるが、その病態はよくわかっていない。本研究では我々の開発したヒトで見られる遺伝子変化と社会性行動の異常を反映すると考えられるマウスモデルを利用して、社会性行動の異常のマイクロエンドフェノタイプを同定し、その病態の理解に迫ることを目標とした。 当該年度は昨年度に実施した行動解析の結果を異なるマウスコホートを用いて追試し、Gtf2i遺伝子を1コピー持つマウスが野生型に比べて過剰な社会性行動を、3コピー持つマウスが社会性行動の減弱を示すことから、この遺伝子のコピー数に応じて社会性行動の量的変化が見られるという結果に再現性があることを確認した。さらにこの行動解析にマッチさせた条件における社会性行動によって活性化される脳領域をc-fosマッピングによって詳細に解析し、昨年度明らかにした前頭前野、扁桃体、線条体、海馬以外に視床のある特定の領域も社会性行動によって活性化されることを明らかにした。 さらに社会性行動の解析を行った野生型、Gtf2i遺伝子を1コピー持つマウス、3コピー持つマウスを用いて前頭前野及び扁桃体からRNAを抽出しRNAseqによる遺伝子発現のパターンをこれらのマウスで比較検討し、それぞれの領域において社会性行動の量的な変化に応じた発現変化を示す幾つかの遺伝子を同定した。これらの遺伝子は社会性行動の異常に関与する可能性が考えられ今後これらの遺伝子が社会性行動の発達にどのように関与するかという研究に発展させる。また、これらの遺伝子群は社会性行動の変化に関係する脳領域におけるマイクロエンドフェノタイプとして、今後様々なマウスモデルを使った社会性行動の異常を示す様々な精神疾患の病態解析につなげていくことが出来ると考える。
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