公募研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
平成25年度は、情動反応性の個体差に関わる遺伝的基盤の解明を目指して研究を進めてきた。日本で捕獲された野生由来マウス系統であるMSMは高い情動反応を示すのに対し、実験用マウス系統であるC57BL/6J(B6)は通常そのような高い情動反応は示さない。その違いに関わる遺伝子を同定するために、MSM系統由来の各染色体をB6系統の対応する染色体と置き換えたコンソミック系統を用いて解析を進めた。その結果、第17番染色体上に高い情動性に関する遺伝子が存在することがわかった。更に遺伝子同定を目的として、MSM由来の染色体領域を絞り込んだコンジェニック系統を多数作製し、それらに関して情動反応を調べることで、17番染色体遠位部位の狭い染色体領域を持つコンジェニック系統が高い情動反応を示すことを見出した。さらに解析を進めた結果、ストレス応答に関与する神経ペプチドPACAPをコードするAdcyap1遺伝子がその原因であると考えられた。この遺伝子が原因であることを示すために、発現解析などの分子遺伝学的解析を進め、さらにストレス応答ホルモンの定量などを進めることで、PACAPの高発現と高い情動性が関連していることを示してきた。また、Adcyap1遺伝子の高発現が個体に及ぼす影響を明らかにするために、MSM系統に由来するAdcyap1遺伝子をB6個体に導入したトランスジェニックマウスの作製を進めてきた。これまでに独立のトランスジェニックラインを複数系統作製することに成功しており、現在遺伝子の発現や行動表現型の解析を進めている。
2: おおむね順調に進展している
平成25年度は、MSM系統で見られる高い情動性の原因の一つがストレス応答神経ペプチドPACAPをコードするAdcyap1であることを新たに発見した研究成果を論文にするために多くの時間を費やした。研究は順調に進んでおり、その証明に必要なAdcyap1遺伝子のトランスジェニックマウスの作成も行った。現在、このマウスを用いた解析を行っているところであり、実験結果が得られ次第論文を投稿することが可能になる。さらに、ストレス応答に関して、そのストレス負荷を受けたマウスを作成するための実験を進めてきた。この実験系が確立できれば、ストレス応答により発現変化する遺伝子を網羅的に次世代シークエンサーによる解析が可能になり、大きな進展がみられるものと期待している。現在のところ、ストレスの負荷が安定せず、ストレス応答ホルモンの定量性に安定した結果が得られないため、その実験系の再検討を進めている。そのため、計画以上に進んでいるとは言いがたい。
これまでの研究の結果、MSM系統の示す高い情動反応の一因はAdcyap1遺伝子の高発現にあることを示してきた。この高発現を示すコンジェニック系統に加えて、MSMタイプのAdcyap1遺伝子を高発現するトランスジェニックマウスの作製にも成功した。これらの系統は、Adcyap1遺伝子の高発現に起因する高い情動性を示すマウスであり、ストレス脆弱性を示す人の良いモデルになると期待できる。そこで、Adcyap1遺伝子の高発現マウスへのストレス負荷により、どのような生理学的また分子遺伝学的変化が生じているか明らかにする予定である。特に、ストレス負荷により発現する遺伝子群にどのような違いがあるか今後解明していく。また、こうした変化に伴い、神経系においてどのようなマイクロエンドフェノタイプの変化がみられるか明らかにしていく。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (9件) (うち招待講演 1件) 図書 (1件)
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