研究実績の概要 |
本研究を遂行する過程において、予想外の発見が大きく分けて二つ有った。まず、トラウマ記憶の固定化過程における、記憶の汎化が起こりやすい期間の存在である。記憶の汎化とは、PTSDの患者に認められる主症状の一つで、トラウマ記憶と直接関係のない刺激が、トラウマ記憶と結びつき、それによって日常生活中の様々な刺激がトラウマ記憶を想起させてしまう。今回の研究で、トラウマ記憶学習から最低6時間、最長24時間の間に、最も汎化の起こりやすい時期があること、そして、汎化を起こす刺激は、新規のものでなく馴化が既に起こっている刺激である必要があることが明らかになった。この知見は、トラウマ後急性期にある患者の、汎化の予防等に役立つ知見を与えるものと考えられる(Fujinaka et al, in preparation)。次に、睡眠のトラウマ記憶における予想外の機能が明らかになった。我々は、トラウマ記憶の固定化の過程において、記憶を担うことが分かっている脳内の特定の神経回路だけを予期的に遺伝学的に追跡し、それらの細胞に光受容体を発現させ、人工的に操作可能とした。次に、それらの神経細胞に、各睡眠ステージ特異的に光照射を行うことで、睡眠の構造そのものを大きく変えることなく、トラウマ記憶を担う神経回路の、睡眠中の興奮を操作した。すると、予想外にも特定の睡眠ステージだけにおいて、それらの神経回路の興奮が、記憶の固定化に大きな役割を果たすことを見出した(未発表データ)。
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