公募研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
スフィンゴシン1-リン酸(S1P)は脂質メディエーターとしての機能だけでなく,スフィンゴ脂質をグリセロリン脂質へ代謝させる経路の分岐点に位置する代謝中間体としての側面も持つ。この代謝経路の反応の詳細や反応に関わる酵素の遺伝子は長い間不明なままであったが,最近我々はその殆どを明らかにすることに成功した。本年度我々は最後まで未同定であったS1P代謝経路の最後の反応を触媒するトランス-2-エノイルCoAレダクターゼをコードする遺伝子としてTERを同定することに成功した。TERはこれまで極長鎖脂肪酸の産生に働くことが報告されており,我々の結果はTERがスフィンゴ脂質代謝と極長鎖脂肪酸産生の2つの機能を持つことを示している。ALDH3A2はS1P代謝に関わる脂肪族アルデヒドデヒドロゲナーゼとして我々が近年同定した遺伝子である。ヒトにおいてALDH3A2遺伝子変異は皮膚神経疾患であるシェーグレン・ラルソン症候群を引き起こすことが知られている。我々はAldh3A2ノックアウトマウスの解析を行い,ミエリン機能に重要な2-ヒドロキシガラクトシルセラミドが減少していることを見いだし,神経症状に対する発症メカニズムの知見を得た。一方,このノックアウトマウスでは明らかな皮膚症状は見られなかったが,この原因としてマウスの表皮ではAldh3A2と同様の活性を示すAldh3B2の発現が高いためであることを明らかにした。我々はこれまでにフィトスフィンゴシンが奇数鎖脂肪酸に代謝されることを酵母を用いた解析から明らかにしてきたが,本年度は動物細胞でも同様にフィトスフィンゴシンが奇数鎖脂肪酸へと代謝されることを明らかにした。この代謝にはS1Pと同様にAldh3A2が関与していた。生体内の奇数鎖脂肪酸の供給源には不明な点が多かったが,我々は酵母の奇数鎖脂肪酸の約6割がフィトスフィンゴシンに由来することを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
交付申請書に記載の項目については研究実績の概要に示した通り,殆ど全て達成することができた。ただし,TER変異を持つ非症候性精神遅滞の患者由来リンパ芽球細胞におけるスフィンゴシン1-リン酸の代謝異常に関して,このTER変異は極長鎖脂肪酸伸長には影響を与えたもののスフィンゴシン1-リン酸の代謝へは影響を与えなかった。
TERに関しては極長鎖脂肪酸伸長とS1P代謝の2つの経路に関与することが分かったので,TERの2つの経路それぞれにおける活性調節機構を明らかにする。Aldh3H2ノックアウトマウスの解析については,電子顕微鏡を用いた詳細な形態学的解析を行い,病態の分子メカニズムを明らかにする。フィトスフィンゴシン代謝に関しては,新たな代謝経路を同定したので,その経路に関わる因子を同定していく。
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すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 1件) 備考 (2件)
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