研究領域 | 生命応答を制御する脂質マシナリー |
研究課題/領域番号 |
25116711
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
多久和 陽 金沢大学, 医学系, 教授 (60171592)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | スフィンゴシン-1-リン酸 / 脂質メディエーター / 血管 / 病態生理 |
研究概要 |
脂質メディエータースフィンゴシン-1-リン酸(S1P)は、血管バリア機能維持・安定化、及びリンパ球・単球系細胞の体内分布のコントロールにおいて重要な役割を果たす。 本研究では、S1P受容体S1P2によるバリア機能と炎症細胞遊出の制御およびその分子機構、ならびにS1P1の作用との異同を明らかにすることが目的である。リポポリサッカライド(LPS)を気道内に投与して誘発した急性肺損傷あるいは急性呼吸促迫症候群(acute respiratory distress syndrome (ARDS)におよぼすS1P2欠損の血管バリア機能に及ぼす影響を、エバンスブルー漏出や肺胞洗浄液(BALF)の炎症所見の解析により評価した。S1P2欠損マウスでは、肺胞浮腫を特徴とした血管透過性亢進型急性肺損傷は、野生型マウスに比較してより高度であった。BALFのタンパク濃度と好中球の増加及び肺におけるサイトカイン発現もノックアウト(KO)マウスでより高度であった。LPS投与は静脈内に投与したエバンスブルー色素の血管外漏出を引き起こしたが、これはKOマウスでより高度であった。LPS投与後の肺湿重量の増加もKOマウスで有意に高値であった。次に、肺障壁破綻におけるNOの関与を検討する目的で、NO合成酵素阻害薬L-NAMEを投与した。L-NAMEは、KOマウスで見られるLPSによる急性肺損傷の増悪を改善した。さらに、肺全体の炎症をサイトカイン(TNFα, IL-6, MCP-1)の遺伝子発現を評価した。KOマウスでは、LPS投与後のサイトカイン発現が野生型マウスに比較して亢進する傾向が見られた。以上の結果は、S1P2がNO合成抑制を介して血管バリア維持を含む機構により急性肺損傷を軽減する可能性を示唆する。S1P2は急性肺損傷の新しい治療標的となりうる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
LPS投与によるARDSモデルにおいてS1P2受容体の血管障壁機能調節作用を解析し、S1P2受容体が血管障壁破綻を抑制することを初めて明らかにした。この機構としてNO合成酵素が関与していることが示唆された。一方、S1P1受容体も血管障壁防御作用を有しているが、今回見出したS1P2の防御作用とS1P1のそれとの差異はまだ不明である。S1Pは白血球の遊走浸潤に影響する。単球・マクロファージはS1P2を発現し、直接影響を受ける。しかし、ARDSモデルにおけるS1P2の血管障壁防御作用において単球・マクロファージのS1P2がどのような役割をはたすかは、明らかにできていない。研究の進捗は、やや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
S1P2 受容体による血管障壁破綻抑制に NO合成酵素が関与していることが示唆されたが、NO合成酵素アイソフォームの同定とNO産生以降の分子機構の解明は今後の課題である。各NO合成酵素アイソフォームに選択的な阻害薬やノックアウトマウスを用いて明らかにする。また、白血球S1P2の役割を明らかにするために骨髄移植実験を来ない、骨髄細胞S1P2の白血球浸潤と血管障壁機能調節における役割を検討する。
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