公募研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
1.臨床検体の収集と試料調整方法の最適化本研究開始前より倫理委員会の承認を得て収集を開始していた臨床検体は、190例(乳癌および乳房腫瘤)、100例(大腸癌)に達している。乳癌の組織切片厚は、10 μmが最適であった。大腸癌30例からは、100個程度の細胞からなる細胞集塊(スフェロイド)の作成を行い、ゼラチン包埋後に切片化した。大腸癌検体の切片厚は、6 μm(癌組織)、10 μm(スフェロイド)が最適であった。いずれの場合においても、マトリックスとして50 μgの2,5-ジヒドロキシ安息香酸を蒸着塗布することで良好な検出が得られた。2.質量顕微鏡解析現在までに、乳房手術検体29例、大腸癌組織および大腸癌スフェロイド20例を対象に質量顕微鏡解析を行った。乳癌に関しては、質量顕微鏡解析と免疫組織学的検討により、癌部においてホスファチジルコリン(PC)(36:1)とステアロイルCoAデサチュラーゼ1が高発現していることを報告した(Ide et al., 2013, PLoS ONE)。さらに、乳癌患者の予後と関連するエストロゲン受容体(ER)、ヒト上皮増殖因子受容体2型(HER2)、Ki-67の発現との関連を検討したところ、ER陽性乳癌ではER陰性乳癌に比べ癌部に含まれるPC(34:1)の相対量が有意に多かった。一方、大腸癌スフェロイド辺縁部にはホスファチジルイノシトール(PI)(18:0/20:4)が集積しており、その発現はPI3K阻害剤により減少することを明らかとした。また、同リン脂質は大腸癌の間質に優位に高発現していることが判明した。
2: おおむね順調に進展している
平成25年度研究計画に挙げた「臨床検体の収集、試料調整方法の最適化」は、対象となるサンプルごとに行われる必要があり、当初予定していた癌腫それぞれにおいてほぼ終了している。加えて、スフェロイドの解析から、質量顕微鏡解析は直径100μmの微小組織検体にも有用であることを示した。もう一つの25年度研究計画の大項目である「質量顕微鏡を用いた癌臨床検体の解析」は、乳癌においては論文発表という一つの成果に到達している。PC(34:1)相対量と相関を認めたERは乳癌患者の予後マーカーであるため、次年度研究計画に挙げた「予後など臨床情報と新規バイオマーカーの関連の検索」にも関連した成果である。
既に多くの臨床検体を収集済みであり、今後は未解析検体に対して質量顕微鏡解析を継続していく。乳癌に関しては、ER、HER2、Ki-67発現を組み合わせて得られるサブタイプに関連した発現を呈する脂質分子(群)の検索に注力する。一方、大腸癌で行ってきたスフェロイド培養は、癌の個別化治療の実現に有用であるとされる手法である。今後は、大腸癌を対象として、従来の抗癌剤で処理した際の脂質の発現・局在の変化を質量顕微鏡により解析し、さらに脂質代謝の抗癌剤耐性への関与についても解析を進める予定である。
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Surf Interface Anal.
巻: in press. ページ: in press.
http://www.hama-med.ac.jp/mt/setou/ja/