ショウジョウバエは、遺伝学実験のモデル動物として発生や行動などの分子遺伝学的解析に古くから利用されて来ている。しかし、その膜脂質や脂質メディエーターについての知見は未だ僅かである。本研究では、ショウジョウバエの温度選択行動へ及ぼす影響を指標に、体温調節に関わる脂質メディエーターを同定することを第一の目的とする。さらに、脂質メディエーターの産生機構と標的細胞での作用機序を解明することにより、脂質メディエーターの新たな生物機能と共に種を越えた普遍的な機能を見出すことを最終目的とする。 申請者らは、ショウジョウバエの温度選択行動を指標にした分子遺伝学的手法を駆使することにより体温調節に関わる分子群の同定を進めている。その過程で、共生細菌の有無により温度選択行動が大きく変化することを見出した。そこで、本年度は、温度選択行動に影響を及ぼす細菌因子の同定を行うためLC-MS/MS解析により共生菌により産生される脂質メディエーターの解析を行った。具体的には、多価不飽和脂肪酸の代謝産物を中心に438種類の物質について無菌飼育と通常飼育条件下での比較解析を行った。解析の結果、共生細菌の産生する特徴的な水酸化脂肪酸分子種を同定した。同定された脂肪酸分子種は生物個体内で一般的な脂肪酸であるリノール酸からLactobacillusをはじめとする細菌の酵素反応によって産生される物質であり、現在、水酸化脂肪酸を含む各種脂肪酸代謝物の温度選択行動における役割について解析を進めている。
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