研究領域 | 生命応答を制御する脂質マシナリー |
研究課題/領域番号 |
25116715
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
古屋敷 智之 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (20362478)
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研究期間 (年度) |
2013-04-26 – 2015-03-31
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キーワード | 薬理学 / 生化学 / 神経科学 / 脂質 |
研究概要 |
ストレスはうつ病など精神疾患のリスク因子であるが、ストレスを標的とした創薬は確立していない。我々は、マウスの反復ストレスによる情動変容に、生理活性脂質プロスタグランジンPGE2とその受容体EP1によるドパミン系制御が必須であることを示し、ミクログリアに発現するPG合成酵素COX-1が関与することを示唆してきた。本研究では、反復ストレスによる脳内のPGE2など生理活性脂質の変動を調べ、その脂質変動を担う分子基盤を明らかにする。また、反復ストレスによる情動変容における自然免疫分子の関与を見出しており、反復ストレスによる脂質変動における自然免疫分子の役割と作用機序にも迫る。 本年度は、反復ストレスによる情動変容が自然免疫分子Xとそのアダプター分子Yの遺伝子欠損マウスで消失することを確認した。ミクログリアを単離した定量的RT-PCR解析により、分子X、分子Yとアラキドン酸産生酵素cPLA2αのミクログリアに発現することを示した。反復ストレスによるPGE2産生は脳領域特異的に誘導されるが、COX-1欠損マウスでは脳内のPGE2産生はほぼ消失していた。一方、分子X欠損マウスではストレス暴露後に限り脳内のPGE2産生が部分的に抑制された。すなわち、分子Xはストレス暴露時に限りCOX-1依存的なPGE2産生を促進すると考えられた。COX-1の作用部位を同定するため、COX-1 floxマウスの作出を継続している。また、脳領域かつミクログリア特異的に遺伝子発現を抑制する組換えウイルスも作出した。 並行して、過剰発現系を用い、反復ストレスに関わるEP1がドパミンD1受容体と複合体を形成すること、EP1の活性化がGβγサブユニットとアデニル酸シクラーゼ7の活性増強を介してD1受容体によるcAMP産生を促進することを示した(Ehrlich et al. Mol Pharmacol, 2013)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の本年度の研究計画では、反復ストレスによる情動変容におけるアラキドン酸産生酵素cPLA2と自然免疫分子の関与を検討し、脳内のPGE2など生理活性脂質の動態を計測し、その脂質動態へのCOX-1、cPLA2、自然免疫分子の関与を調べ、脳内でのcPLA2と自然免疫分子の発現を解析し、COX-1条件付け欠損マウスの作出を継続することを提案した。「研究実施の概要」に示した通り、反復ストレスによる情動変容における自然免疫分子Xとそのアダプター分子Yの関与を示し、脳内のPGE2産生におけるCOX-1と自然免疫分子Xの役割を解析し、COX-1 floxマウスの作出を継続している。加えて、ストレスによる情動変容を担うPGE受容体EP1とドパミン受容体のクロストークの分子機序も過剰発現系で明らかにしたことから、おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、自然免疫分子XによるCOX-1依存的なPGE2産生の促進機構を、ストレス暴露時のミクログリアでの自然免疫分子Xの作用機序の解析により明らかにする。具体的には、自然免疫分子Xの下流で働く情報伝達系の活性化を組織学的、生化学的に調べると共に、その情報伝達系をミクログリア特異的に阻害したときのPGE2産生を調べる。並行して、培養ミクログリアで自然免疫分子Xの活性化がCOX-1依存的なPGE2産生を促進するかを調べ、その分子機序を解析する。本研究で作出したCOX-1 floxマウスを用いて、COX-1の作用する脳領域と細胞種を同定する。
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