研究領域 | 生命応答を制御する脂質マシナリー |
研究課題/領域番号 |
25116716
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
黒瀬 等 九州大学, 薬学研究科(研究院), 教授 (10183039)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 心筋梗塞 / ロイコトリエンB4受容体 / 炎症 / 好中球 |
研究概要 |
野生型マウスとロイコトリエンB4受容体ノックアウト(BLT1-KO)マウスに心筋梗塞処置を施し、処置後28日目までの生存率を比較した。その結果、野生型マウスと比較してBLT1-KOマウスでは心筋梗塞後の生存率が有意に上昇していた。BLT1-KOマウスにおける生存率の有意な改善は特に心筋梗塞処置後3日目から6日目において認められたことから、心筋梗塞処置後3日目の心臓切片を作成し病理学的な解析を行った。染色の結果、梗塞領域周辺においてCD68陽性マクロファージやGr-1陽性好中球の浸潤が、野生型マウスと比較してBLT1-KOマウスにおいて顕著に低下していた。この結果は、BLT1が心筋梗塞後のマクロファージや好中球といった白血球の遊走の促進に重要な役割を持つことを示している。さらに、炎症性サイトカインやケモカインの発現量は、野生型マウスと比較してBLT1-KOマウスで有意に低下していた。次に、梗塞部位に集積する好中球やマクロファージに発現しているBLT1の発現レベルを測定した。その結果、BLT1は好中球、好酸球、単球およびマクロファージに発現しており、その中でも特に梗塞部位へ早い時期から浸潤してくる好中球での発現が最も高かった。これらの結果は、BLT1が心筋梗塞後に心臓への白血球の浸潤を促進し、過剰な炎症応答を引き起こさせることで病態悪化の原因となっていることを示している。これまで、心筋梗塞における白血球(とくに好中球)の役割については、ほとんど解析されてこなかった。本研究より、BLT1が心筋梗塞時の炎症応答を制御していることが初めて明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおよそ予定していた実験を終わっており、残された期間の実験を行うことで結論を得ることができると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後、次の実験を行いロイコトリエンB4-BLT1シグナリング系が心筋梗塞後の病態に与える影響について明らかにする。(1)臨床への適用(治療)を考えると、BLT1拮抗薬の投与がBLT1-KOマウスと同じような効果を示す必要がある。そこで、BLT1選択的拮抗薬(ONO-4057)を投与し、心筋梗塞処置後の病態がどのように影響されるか検討する。(2)Gr-1は好中球での発現が高い。そこで、抗Gr-1抗体を腹腔に投与し、マウス体内から好中球を除去する。このマウスに心筋梗塞処置を行うことで、心筋梗塞時における好中球の役割解明を検討する。BLT1-KOマウスに心筋梗塞処置を行うと保護的な効果が観察されたことから、拮抗薬も保護的な効果を示すと考えている。これにより、好中球に発現しているBLT1が心傷害の主なプレイヤーであることを示せる。(3)心筋梗塞後に心臓に浸潤してくる好中球が骨髄に由来することを骨髄移植の実験より検討する。野生型マウスまたはBLT1-KOマウスの骨髄を野生型マウスに移植したキメラマウスを作成した。野生型マウスの骨髄を移植されたマウス(野生型→野生型)とBLT1-KOマウスの骨髄を移植された野生型マウス(BLT1-KO→野生型:すなわち、BLT1-KOマウスの骨髄を移植されたマウスは、骨髄に由来する細胞のみがBLT1を欠損している)に心筋梗塞処置を行い、骨髄由来の細胞の役割を明らかにする。また、これら骨髄移植マウスに心筋梗塞処置を行い、心臓切片の免疫組織染色(心臓に浸潤してくるCD68陽性マクロファージやGr-1陽性好中球)や炎症性サイトカインやケモカインのmRNA発現量を測定する。これにより、骨髄由来の細胞の役割を明らかにできる。さらに、心臓に浸潤してくる白血球のサブセットをFACSにより解析し、どの白血球が重要な役割を果たしているのか検討する。
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