本申請では、心筋梗塞時に生じる炎症応答にロイコトリエンB4受容体がどのように関与しているのかについて検討した。8~10週齢の雄性C57BL/6J野生型(WT)マウスおよびBLT1ノックアウト(BLT1-KO)マウスに心筋梗塞(Myocardial infarction: MI)処置(左冠動脈前下行枝の結紮)を施した。MI処置後の生存率(処置後28日間)と心機能の評価(処置後28日目、心エコー検査による)を行ったところ、WTマウスに比べ、BLT1-KOマウスでは生存率と心機能に有意な改善が認められた。生存率の差は、MI処置後3日目以降であったことから、MI処置後3日の心臓を摘出し炎症関連因子のmRNA測定を行った。その結果、炎症関連因子の発現誘導がBLT1-KOマウスでは有意に減弱していた。続いて、ガンマ線照射したWTマウスにWTマウスまたはBLT1-KOマウスの骨髄液を移植した骨髄移植マウス(WT→WTマウスおよびKO→WTマウス)を作成した。これら骨髄移植マウスに対してMI処置を施し、MI処置後3日目の心臓における炎症の程度を比較したところ、BLT1-KOマウスの骨髄を移植したマウス(KO→WTマウス)では、炎症関連因子の発現誘導の有意な減弱が認められた。これらの結果から、BLT1を発現している骨髄由来の細胞が、炎症応答を増幅させることで心筋梗塞の病態を悪化させている可能性が考えられた。治療への応用を考え次の実験を行った。BLT1拮抗薬(ONO-4057)をMI処置後すぐに尾静脈内投与すると、MI処置後の心機能(MI処置及び拮抗薬投与後14日目)は、コントロール群と比較して有意に改善した。本研究によって、BLT1が心筋梗塞後の炎症応答を制御することが明らかとなり、さらにはBLT1が心筋梗塞における新たな治療標的になる可能性が示された。
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