公募研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
大動脈瘤は血管壁内の炎症と弾性線維をはじめとした細胞外基質の分解を特徴とする、進行性の致死性疾患である。炎症と細胞外基質の分解により血管壁が脆弱化すると、血管内圧力のために大動脈の直径は拡大し、破裂時の死亡率は30%以上と非常に高い。しかしながら現在、対処療法である外科的治療以外の根本的治療は存在しない。本研究では、プロスタグランディンE受容体EP4シグナルを抑制することで、大動脈瘤の進行を抑制する初めての薬物治療の開発を目的とした。先行研究にて、ヒト大動脈瘤ではEP4発現と弾性線維分解に正の相関を認め、ヒト大動脈瘤組織を用いた検討ではEP4活性化がMMP-2やIL-6の発現を誘導すること、EP4拮抗薬がこれらの分子群の発現、活性を抑制することを示した。さらにEP4欠損マウスやApoE・EP4ダブル欠損マウスにおける大動脈瘤の解析を通じて、大動脈瘤の進行にPGE2-EP4シグナルが関与すること、EP4拮抗薬が大動脈瘤の進行抑制薬、治療薬として有効である可能性を示唆した。本研究ではさらに、大動脈瘤組織の器官培養の上清の質量分析を行い、ヒト大動脈瘤の進行に強くかかわる分泌蛋白の網羅的解析を行った。大動脈瘤組織をプロスタグランディンE、EP4アゴニスト、またはプロスタグランディンE+EP4アンタゴニストで刺激し、EP4シグナルによって病変組織において分泌が制御されるタンパクを検索したところ、インターロイキン6やマトリクスメタロプロテアーゼをはじめとする各種プロテアーゼが検出され、ヒトの病変組織でもプロスタグランディンE-EP4シグナルが疾患増悪に強く関与している可能性が示された。また、これらのうち大動脈瘤患者の血漿中で分泌がみられ、正常ボランティア血漿では検出されないタンパクもあり、疾患進行を予測するバイオマーカーの候補となりえると考えられた。
1: 当初の計画以上に進展している
大動脈瘤の病変組織の器官培養の質量分析の条件設定が完了し、7例のサンプルを用いて疾患進行に関連すると考えられるタンパクを検出でき、さらにそれらのうちバイオマーカーとしての可能性があることが示唆できた。これらの進捗は当初の予定を上回るものである。
本年度は、大動脈瘤患者と正常者、動脈硬化性病変を持つが大動脈瘤のない患者の3群でそれぞれ30例以上を目標として血漿検体を収集し、先に挙げた候補タンパクの疾患活動性バイオマーカーとしての有用性を検討する。また、EP4拮抗薬の大動脈瘤治療への有効性をさらに検討するため、大動脈瘤をすでに形成させた疾患モデルマウスにEP4拮抗薬を投与してその治療効果と進行抑制効果を検証する。現在大動脈瘤の進行を予測できるバイオマーカーは確立したものがないため、本研究によりこれを得ることができれば、EP4拮抗薬の臨床試験の効果判定にとっても有用である他、薬剤の投与の適応を決定するうえでも有効であると考えられ、大動脈瘤治療薬の臨床応用の実現に貢献できると考えられる。
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