公募研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
本研究では、プロスタグランジン(PG)産生に関わる酵素のうち、細胞内ホスホリパーゼA2(PLA2)、長鎖アシルCoA合成酵素(ACSL)、PG最終合成酵素群に注目し、PG様脂質性メディエーター産生フローの全体像を明らかにすることを目的としている。本年度は、これらPG産生関連酵素群に含まれるいくつかの酵素の遺伝子改変マウスを用い、以下の点を明らかにした。1. 細胞内PLA2のうちiPLA2γの遺伝子欠損(KO)マウスに、肺癌細胞であるLLCを皮下投与した際に形成される腫瘍は、野生型マウスに投与した場合に比べ有意に小さかった。iPLA2γががんの進展に関わる宿主側の因子としてはたらいている可能性が考えられた。一方、iPLA2γの過剰発現マウスは胎生致死であり、iPLA2γの過剰発現は胎児の発達に致死的影響を及ぼすことが示された。2. PG最終合成酵素の1つ、PGI合成酵素(PGIS)のKOマウスに高脂肪食を負荷したところ、野生型マウスに比べ、脂肪量ならびに体重の増加、脂肪肝の形成が抑えられることがわかった。一方、PGIS KOマウスより調製したMEFをin vitroで脂肪細胞に分化させたが、このin vitro分化能は、野生型マウス由来のMEFと違いはみられなかった。PGISを介し産生されるPGI2は脂肪細胞への脂肪の蓄積に関与している可能性が考えられた。PGISと膜結合型PGE合成酵素-1(mPGES-1)の二重KO(WKO)マウスでは、高脂肪食負荷に伴う脂肪量ならびに体重の増加、脂肪肝の形成が、PGISのKOマウスよりさらに抑制されたが、これはPGE2の産生低下というより、shunting現象によるPGF2α産生の上昇によるものであると考えられた。3. ACSLの1つ、ACSL4のKOマウスを導入し、その表現型解析を開始した。4. ACSL4をノックダウンした細胞をインターロイキン-1βで刺激すると、ノックダウンしない場合には検出されなかった様々なアラキドン酸代謝物が検出されることがわかった。
2: おおむね順調に進展している
mPGES-1、PGISの単独KOマウスならびにWKOマウス、iPLA2γの過剰発現マウスおよびKOマウスの表現型の解析を通じ、生命応答制御におけるPG産生関連酵素群間の様々なクロストークについて、予想以上に多くの新たな知見を得ることができた。しかし一方で、mPGES-1、PGIS以外のPG最終合成酵素の単独KOマウスやWKOマウス、iPLA2γと他の細胞内PLA2とのWKOマウスの導入や作製については、当初の計画よりやや遅れてしまったことも否めない。この点については今後の課題である。また、ACSL4のKOマウスを新たに導入し、その表現型解析を開始することができた。現在順調に繁殖も進んでいる。細胞におけるACSL4をノックダウンすることにより、COX-2の誘導に伴い産生される、既知の代謝物とは異なる新奇アラキドン酸代謝物を検出・同定することもできた。新奇脂質の検出・同定の手法も確立でき、今後の研究に応用可能である。
これまでに解析を進めてきたmPGES-1、PGISの単独KOマウスならびにWKOマウス、iPLA2γの過剰発現マウスおよびKOマウスの表現型の解析をさらに進めるとともに、新たに導入したACSL4のKOマウスの表現型解析を行う。ごく最近になり、mPGES-1、PGISのWKOマウスでは生殖に異常がみられる可能性が示唆されてきたので、この点については特に重点的に解析を進める。また、ACSL4とPGISについては、今まであまり明らかになっていない炎症反応への関与を解析する目的で、白血球特異的なconditional KOマウスの作製に着手する。さらに、これら以外のPG産生関連酵素の単独KOマウスやKOマウスについても導入あるいは作製を行い、これらについても表現型解析を開始する。また、マウスを用いた解析を通じ得られた知見とヒト疾患との関連についても解析を行う。また、PG最終合成酵素欠損に伴うshunting現象や、ACSLやPLA2のノックダウン・欠損により、今まで検出されなかったアラキドン酸代謝物が検出されるかについても、解析を続け、検出されたものについては構造決定を進める。
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Biochimica et Biophyica Acta - Molecular and Cell Biology of Lipids
巻: 1841 ページ: 44 - 53
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PLoS One
巻: 8 ページ: e71542
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