研究実績の概要 |
本研究では、らせん形細菌レプトスピラの推進力発生メカニズムの解明を目的として、26年度は、3次元顕微計測システムを用いた運動解析、外膜の動態解析、突然変異体の運動解析などを予定していた。 1.遊泳中のレプトスピラは、形状の異なる3つのパーツに分けられる。レプトスピラの遊泳と方向転換は、これらの回転の力学的な調和によって成り立っていると予想される。3次元顕微計測システムを用いた運動解析では、細胞前方末端の左巻きらせん(Spiral end)の回転方向は常に反時計回りであるが、細胞後方末端の半円状構造(Hook end)の回転方向は、同一細胞においても変化することが明らかとなった。推進力発生に直接関わらないHook endの回転が、運動における力学バランスの調整に寄与する可能性が示唆された。 2.外膜の動態計測を行うために、外膜蛋白質LipL32をターゲットとして、抗体(抗LipL32抗体)修飾金コロイドをレプトスピラ細胞に標識した。レプトスピラの運動に伴う金コロイドの動きが捉えられたが、LipL32が流動的であるか、ペプチドグリカンなどの足場に固定されているかなどが不明であるため、ターゲットとする分子の検討が必要である。 3.走化性制御分子CheYを欠損した変異株を得ることに成功し、運動解析を行った。本研究課題において開発し、26年度に発表したアガードロップアッセイ法(Islam et al., 2014 FEMS Microbiol. Lett.)により走化性応答を解析したところ、CheY欠損株では、遊泳方向転換の頻度が誘引物質の影響を受けないことが分かった。また、CheY欠損株では野生型株に比べて方向転換頻度が高く、直線的な遊泳が観察されなかった。これらの結果は外べん毛細菌とは大きく異なるものであり、細胞内べん毛による推進力発生の仕組みを理解する上で極めて重要な現象である。さらに詳細な運動解析と遺伝学的解析が必要である。
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