超好熱菌は至適生育温度が80°C以上の微生物として定義されており、古細菌の多くに加えて、真正細菌の中ではAquifex属などが含まれている。Aquifex属は16S rRNA系統解析から真正細菌の中でも最も初期に分岐したことが示されている。研究代表者がこれまで開発してきた装置を用いれば、高温、高圧、嫌気条件といった極限環境を顕微鏡下につくりだし、菌体の様子をリアルタイムで観察できる。平成26年度は、真正細菌の中で遺伝的・構造的に広く保存された運動器官であるべん毛に着目し、Aquifex属の代表例であるA. aeolicusの運動マシナリーを調べる研究を行った。Huber博士から提供していただいたA. aeolicusの野生株を対数増殖期まで生長させ、培地内での遊泳運動を顕微観察した。その結果、多くのA. aeolicusは遊泳運動を示さなかったものの、一部の菌体は培地内をほぼまっすぐに泳ぐことが明らかになった。その遊泳速度は至適生育温度である85℃では約90µm/sであり、その速度は温度とともに低下した。菌体の電子顕微鏡撮影を行ったところ、少数の菌体からは細胞の片方の極から主として1本の鞭毛繊維が生えているのが観察された。多くの細胞本体からはべん毛繊維は見られなかったものの、この結果は光学顕微鏡下で遊泳運動を示す菌体が少なかったことと一致する。以上の結果から、A. aeolicusは細胞の局部にあるべん毛繊維を運動マシナリーとして利用して遊泳運動を行っていると考えられる。
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