電子スピン共鳴ESRによる蛋白質の動的構造の原子レベル解析を行った。1)トロポミオシン(Tm)全長にわたってアミノ酸をシステインに変異させてスピンラベルSL標識し、筋肉の細いフィラメント(超分子複合体)を再構成して測定したSL側鎖運動性はCaイオンによって全く変化しない。今年度は、アクチンとTm間のSLまたはMn-SL距離の精密測定し、その距離マップから、Tmとアクチンの結晶構造の相互位置を動かし、複合体の立体構造のモデル作成に成功した。2)イオン輸送P型ATPaseは、細菌鞭毛やF1F0のイオン流と回転・構造変化との間のエネルギー変換とは共通原理があると考えられる。そこで、銅イオン輸送ATPase TtCopBに結合したCu2+のみのESRスペクトルを、PH7.4で遊離のCu2+をESR-silentにすることにより取得することに成功した。2個Cu2+が強く結合したESRスペクトルのg値、超微細結合定数から、Type2のCu2+配位構造が明らかとなった。また、N原子が近傍に存在することによる7本の吸収線が見られた。さらに3-10個のCu2+を結合させたところ、配位構造がやや異なるType2の結合であることがわかった。N末端の30アミノ酸を除去したCopBでは約3個のCu2+結合が見られ、N末端領域に多数のCu2+結合するリザーバーがあることがわかった。intact CopBに結合させた2個のCu2+の低温スペクトルはATP加水分解中に凍結した場合も変化は小さかったことから、配位構造の変化した中間状態は過渡的に形成されている可能性が示唆された。そこで、ATP迅速混合凍結法やリン酸アナログにより中間状態をトラップして調べる計画である。また、CopBのアミノ酸をスピンラベルSL標識し、SLと常磁性Cu2+の距離をマッピングしATP分解中のイオンの位置を決定することを目指したい。
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