本研究の目的は、心筋細胞におけるアクチン動態の制御機構の解明を通じて、サルコメアという超分子マシナリーの恒常性維持機構を解き明かすことである。心筋細胞は、アクチンとミオシンの両線維が規則正しく整列した収縮装置であるサルコメアによって、効率的に強い収縮力を発生するが、この収縮装置サルコメアがどのようにして形成されるかはよく分かっていない。我々はこれまでに心筋に特異的に発現するアクチン調節蛋白質forminの一つFhod3が、心筋サルコメアの形成に必須の役割を果たすことをFhod3欠損マウスの解析により明らかにしてきたが、その分子機構は依然不明であった。本年度は、その分子機構を明らかにするために、アクチンと結合出来ない変異型Fhod3を胎生期の心臓に特異的に発現するトランスジェニックマウスを作出した。当該マウスは、Fhod3欠損マウスと同様に、心筋サルコメアの形成不全により心臓が形成されずに胎生期に致死となったことから、Fhod3のアクチン結合能が胎生期の心臓形成に必須であることが明らかとなった。さらに、野生型Fhod3を胎生期の心臓に特異的に発現するトランスジェニックマウスも作出し、これを用いて心臓形成過程におけるサルコメア内のFhod3の局在様式を詳細に検討した結果、Fhod3はサルコメア内のアクチン線維の周期的配置が完成するより前からサルコメア中央部に局在し、Fhod3に挟まれた領域でアクチン線維のトリミングが生じていることを見出した。これらの結果より、Fhod3がサルコメア内のアクチン線維の周期的な配置の完成に関わる可能性が示唆された。
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