研究領域 | 運動超分子マシナリーが織りなす調和と多様性 |
研究課題/領域番号 |
25117519
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
林 郁子 横浜市立大学, 生命医科学研究科, 准教授 (80464527)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 生体分子 / 蛋白質 / 細胞骨格 / 結晶構造解析 / 微生物 |
研究概要 |
本課題はcytomotive filamentとよばれる重合性の蛋白質(重合分子モーター)TubZが生み出す動力によって制御されるセレウス菌低コピー数pXO1様プラスミドの分配機構を分子レベルで明らかにすることを目的とする。TubZは毒素プラスミドをもつバチルス属亜種に保存された真核生物チューブリンの相同蛋白質であり、細胞内でのTubZの挙動から微小管と似通った分子動態をもつことが示唆されている。私達はこれまでTubZの結晶構造の決定および試験管内における重合反応系の確立を完了するとともに、tubZとオペロンを組むtubRの遺伝子産物であるDNA結合蛋白質がtubRZオペロンの転写制御に関わることを明らかにしてきた。またTubRの結晶構造とDNAの認識配列、オペロンにおける結合領域を決定した。 平成25年度においては、TubRとその結合領域の結晶化に向けた試料調製法を確立した。またTubZの活性化には、TubRとその結合DNA配列ばかりでなく、TubYとよばれるDNA結合蛋白質が必要であることを明らかにした。tubY遺伝子はtubRZオペロン上流に逆向きにコードされており、tubYRZレギュロンを形成することが示唆される。TubYはtubRZとtubYの転写制御に関わることも明らかにした。またTubYは2つのドメイン構造をもつが、それぞれについて大腸菌を用いた組換え蛋白質の発現系を構築しており、結晶化も行っている。平成26年はTubYも含めた結晶構造解析とtubYRZの分子制御機構を明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題で困難な点のひとつは、結晶構造解析に用いるTubR結合領域DNA(およそ80塩基対)の大量試料調製にある。化学合成では非常に高価になるため組換え体を用いた試料調製が好ましいが、相当量の大腸菌の大量培養をしなければならず、かつ精製が困難である。平成25年度はハイコピーのプラスミドに複数の目的配列をサブクローニングすることで、結晶構造解析を行うに足る収量が期待できるプラスミドを構築し80塩基対DNAの精製法を確立した。TubRの発現系は構築済であり、TubR・DNA複合体を大量調製法することを可能とした。 プラスミド分配にTubY蛋白質が関わることは当初予期されていなかった。これまでの既知の細胞骨格因子の研究から、重合分子が生命現象に関わる際、一般的に1桁は重合活性が上昇することが知られているが、TubZはtubRZオペロンのコンポーネントだけでは十分に活性化されないようである。私たちはTubZの十分な活性化にはTubRとDNAばかりでなくTubYが必要であること、またTubYはTubR結合領域とは異なる領域でDNAと相互作用するにもかかわらずTubYのDNA結合能もTubZの活性化に関わることも明らかにした。これより平成25年度はpXO1様プラスミド分配機構の必須コンポーネントを明らかにしたといえる。
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今後の研究の推進方策 |
(1)平成26年度はTubR・DNA複合体の結晶化を行うとともに結晶構造の決定を目指す。TubRの結晶構造は得られているため、分子置換法で構造決定を行う予定である。 (2)TubYについてN末側がDNA結合ドメイン、C末側が多量体化ドメインの2つのドメイン構造からなることを明らかにしたが、その両方について組換え体発現系を用いて多波長異常分散法による結晶構造決定を行う。ドメインの分子量は小さいため、結晶化が困難であるときに備えNMR法による構造解析も考慮する。さらにそれぞれのドメインがTubR、TubZとどのように相互作用をし、TubZの活性化に寄与するかを明らかにする。TubYがTubRとDNAとの複合体形成にどのような影響を与えるかについては、フットプリント法とゲルシフトアッセイによって解析するとともに、電子顕微鏡による巨大複合体の構造解析も行う。立体構造情報が得られた際には変異体も併用して分子間相互作用解析を行う。 (3)細胞内への遺伝子導入実験を行う。セレウス菌(Bacillus cereus)への遺伝子導入の報告は極めて少ないため、並行して枯草菌(Bacillus subtilis)への遺伝子導入を行う。その上で免疫電子顕微鏡法による解析を進めるとともに、GFPとの融合蛋白質の発現ベクターを構築することで蛍光顕微鏡による解析を試みる。大腸菌を用いての予備実験は済ませており、シャトルベクターを用いたバチルス属への形質転換系も現在樹立中である。
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