公募研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
ある種の真核生物鞭毛・繊毛膜は、基質との間で滑走運動を行うことが知られている。最近、緑藻クラミドモナスにおける鞭毛膜表面の滑走運動が、鞭毛内輸送系(IFT)によって担われていることが確実になってきた。本研究では、その滑走運動の生理的意味を探り、運動機構をさらに解明することを目的にした。滑走運動の機能を探るためには、通常の鞭毛運動を行わない変異株の使用が必要であるが、そのような変異株は基質への接着性が悪く、細胞の行動の検定には適していない。そこで本研究では、ガラス表面への付着性が増大した突然変異株を単離し、滑走運動による運動現象だけを長時間にわたって記録する方法を確立し、細胞がその運動によってなんらかの行動を示すか否かを検討した。しかしながら、一方向からの光照射でも、温度勾配の下でも、滑走運動には特定の方向性は見られなかった。したがって、本年度の研究では、クラミドモナスが鞭毛滑走運動によって生理的意味のある行動を行うか否かを明らかにすることはできなかった。一方現在提案されている滑走運動機構のモデルでは、鞭毛膜表面における糖蛋白質がIFTによって鞭毛表面上を移動することが運動の原因であるとされている。しかし、そのようなモデルでは、細胞が鞭毛の長さ以上にわたって滑走運動を続ける理由は説明できない。このことに関して、今年度の研究では、鞭毛表面上の糖蛋白質が容易に表面から離脱し、基質側に付着することを示唆する結果が得られた。すなわち、鞭毛膜上の糖蛋白質は、これまでの想像を超えてダイナミックにふるまっているらしい。糖蛋白質の離脱が鞭毛上のどの位置で、どのように調節されておこるのか、今後の興味深い問題である。
2: おおむね順調に進展している
今年度の研究はおおむね順調に進んだと考えられる。本研究課題の大きな目的は、鞭毛の滑走運動によるクラミドモナス細胞の行動発現の有無を明らかにすることであった。研究遂行の上での大きな障害は、個々の細胞の鞭毛滑走運動を十分長時間観察することが難しいことであったが、この問題はガラス表面に付着しやすい突然変異株を用いることで解決した。そのような実験によると、滑走運動による光走性や温度走性は存在しないことが明らかになりつつある。すなわち、鞭毛表面による滑走現象はクラミドモナスの生存に有利になるような行動発現には関与しない可能性が大きい。このことにより、滑走運動の生理的意義はますます不可解になったと言える。しかし、滑走運動による行動検定が可能になったことにより、今後さらに多様な条件を検定することが可能になった。行動検定実験とは別に、本研究では鞭毛表面の糖タンパク質が、鞭毛表面の運動に伴って高頻度で離脱するという、めざましい現象が発見された。これは滑走運動機構に重要な手がかりをあたえる現象と考えられ、この研究分野におけるブレークスルーになる可能性がある。
滑走運動による走光性や走熱性は存在しない可能性が大きいので、今後は各種化学物質に対する走化性の検討を行う。同時に、栄養細胞だけでなく、配偶子の行動も検討する。クラミドモナスにはプラスとマイナスの接合型があり、異なる接合型の配偶子同士だけで接合する。接合過程の最初のステップは鞭毛の接着である。その過程に配偶子同士の誘引現象があってそこに鞭毛の滑走運動が関与している可能性が考えられる。鞭毛膜の糖タンパク質離脱現象に関しては、どのような糖タンパク質が、どのような頻度で離脱するかを検討する。その目的のため、鞭毛表面に結合させたプラスチックビーズを回収し、そのタンパク質組成を解析する。
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Molecular Biology of the Cell
巻: 25 ページ: 107-117
10.1091/mbc.E13-07-0424
eLife
巻: 3 ページ: 1-24
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