公募研究
分裂酵母のcdc25変異株細胞にミオシン軽鎖-GFPを発現させ、細胞壁溶解酵素処理により細胞壁を除いてスフェロプラストとし、収縮環形成を確認してから界面活性剤処理により細胞ゴースト(収縮環-細胞膜複合体)を単離した。これにATPを加えると収縮環の収縮がおこるが、ATP, CTP, ITP, GTPはこの順で収縮速度が遅くなり、非水解性のAMPPNPでは収縮がおこらなかった。ミオシンATPaseの阻害剤存在化や、ミオシン重鎖変異株myo2-E1と欠損株myo3Δの2重変異株では収縮は起こらかった。このためミオシンATPase活性が収縮に働いている事が分かった。またATP添加で起こる収縮は生きた細胞中の収縮環の収縮の20-30倍という速い速度だった。この結果は生細胞中では収縮を遅くする制御系が存在することを示唆し、あらたな研究課題が生じた。収縮の際、収縮環はゴーストの細胞膜から離れて収縮した。収縮環と細胞膜の接点構造の解明も新たな研究課題である。収縮中にアクチン繊維は脱重合したか少なくとも小単位に解離したが、アクチン繊維安定化物質を加えた実験により、脱重合そのものは収縮に必須でないことがわかった。また分裂酵母のアクチン繊維架橋タンパク質IQGAPとフィンブリンを大腸菌で発現/精製しそれぞれゴーストに加えて収縮環を収縮させたところ収縮は阻害された。これは適度な繊維の架橋が収縮環の構造維持と収縮に必要である事を示している。収縮環が収縮せずに停止する分裂停止変異株cps1細胞から単離したゴーストの収縮環は正常な速度で収縮した。
2: おおむね順調に進展している
収縮環の収縮条件の基本的検討はほぼ達成した。すなわち収縮のヌクレオチド要求性、pH依存性、Caイオン依存性、II型ミオシンの必要性、アクチン脱重合の不要性、トロポミオシンの必要性、アクチンフィラメント架橋タンパク質による収縮調節などを明らかにした。さらにin vitroの収縮は細胞内での収縮の速度に比べて20倍以上速いことが分かった。このことは新たな問題を提起した。即ち細胞内では収縮速度を遅く調節する機構が存在するだろうという事である。さらに本収縮系を用いて収縮環の収縮力の測定が可能ではないかと考えられる。これについては既に研究を開始し、3つの方法を試みているところである。また本収縮系は細胞質成分を排除してあるため、収縮環が露出しており、これを用いて収縮環の微細構造を解明できるのではないかと考えている。これについても3つの方法(エッチングレプリカ法、臨界点乾燥法、クライオEM)により試料を作製し、条件検討を行っている。現在、ゴーストの膜が物理的障害になっており内部がよく見えず苦戦している。また収縮環の完全単離は目標の一つで、それができればプロテオーム解析も可能になる.現在、部分的に可能になっているが、単離される割合が低いため、これも条件検討を行っている。
1) 分裂酵母細胞ゴーストを用いた収縮環の微細構造の解析。ゴーストを凍結割断して内部の収縮環が見えるようにし、エッチングレプリカ法によりその微細構造を観察する.またはゴーストを基質にはりつけてからunroofingし、内部の収縮環が見えるようにし、エッチングレプリカ法によりその微細構造を観察する.また同様の試料を臨界点乾燥し、収縮環の微細構造を観察する.いずれの方法においてもアクチンフィラメントをゲルソリン処理によって除いた物も作製し、ミオシンの観察を試みる。2) 分裂酵母細胞ゴーストを用いた収縮環の収縮力の測定。ゴーストの膜の破れ目から2本のガラス針を差し込んでATPを加え、収縮環を収縮させて発生する力を測定する.また、ゴースト内に2つのビーズを導入して光ピンセットで操り、収縮環を収縮させて発生する力を測定する.さらにゴースト内の収縮環の間に油滴を顕微注入し、収縮環を収縮させて油滴を変形させる力として収縮力を測定する。3) 収縮環の収縮ならびに収縮速度の制御系の研究。分裂酵母から分裂期の細胞質を調製し、細胞ゴーストに加えて収縮環の収縮速度を測定する.また温度感受性の分裂停止変異株からゴーストを調製し、収縮環の収縮性を見ることによって収縮開始の制御系を探る。4) カエル卵抽出液を用いた収縮環形成過程の研究。アフリカツメガエル卵の抽出液を調製し、油中に懸濁するかリポソームに封入して細胞質ドロップレットを作製する。まずはこの中でのアクチンの動きを観察する。ドロップレット中のアクチンがドロップレット膜に結合する条件を探り、アクチンの運動によってドロップレットが変形あるいは収縮する条件を探る。
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生物物理
巻: 未定 ページ: 未定
細胞工学
巻: 33 ページ: 未定
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http://first.lifesciencedb.jp/archives/7443