研究領域 | 運動超分子マシナリーが織りなす調和と多様性 |
研究課題/領域番号 |
25117523
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
若林 健之 帝京大学, 医療技術学部, 教授 (90011717)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | アクチン / 細胞性粘菌 / ミオシン / 細胞運動 / トレッドミリング / アクチン重合 / 圧力顕微鏡 / 仮足 |
研究概要 |
私達はアクチンフィラメントの高分解能クライオ電顕像から三次元構造を解き、原子モデルを構築し、重合によるATP分解促進、リン酸放出遅延の理由、リン酸のフィラメント安定化効果、Mg2+の重合促進効果を説明するアクチン重合機構を提唱した(Murakami et al. Cell, 143, 275-287, 2010)。 運動マシナリーとしてのアクチントレッドミリング機構を原子レベルで明らかにすることを目的とし、変異アクチン発現プラスミドを導入した細胞性粘菌の細胞運動・細胞分化を解析してきた。 アクチンの機能性変異体を探索するために、飢餓誘導性の細胞分化のミクロ検定法の発展させた。無栄養寒天培地に10万細胞/mLの濃度の細胞を5マイクロ㍑を滴下し、その後に形成されるマウンドの数、大きさを野生型と平行して観察する。疎水性へリックスに導入した変異では小さなマウンドが多数できることが分かった。 蛍光法による微量でのアクチン重合能の測定法を確立させた。これまでアクチンの重合能は超遠心法によって行ってきたが、大量のタンパク質が得られない場合に備え、50マイクロ㍑の試料で蛍光測定で検定出来た。励起光によるダメージ最小化するためタイムラプス測定し、時間経過も追えるようになった。 疎水クレフトの入り口にあって重合性を変化させるチロシン143をフェニルアラニン、イソロイシン、またはトリプトファンに変異させたアクチンの高分解能構造解析を進めている。また疎水性へリックスに変異を入れたアクチンの結晶化にも成功し、構造解析が進行中である。 細胞に60-100 MPa の高圧をかけると、細胞が一旦丸くなるが、1気圧(0.1 MPa)に戻すと、細胞骨格が回復し始め、仮足や収縮胞の動きも復活していく(西山研(京大)との共同研究)。この過程はアクチン変異体を発現するプラスミドの存在下では異なることも分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
変異体の選別法としての、(1)飢餓誘導性分化過程の観察法、(2)蛍光法による重合過程の観察法の確立に成功し、アクチンのDNaseIループ(Dループ)の機能的変異体、疎水性へリックスの機能的変異体を得られた。後者の変異体では細胞移動速度が低下しており、ミオシンとの相互作用部位が変化していることが予想される。 4種類の変異体アクチンの結晶解析が高分解能で進行しており(1.8 A --- 2.0 A 分解能)、多数の水分子も同定出来ている。 粘菌細胞に60-100 MPa の高圧をかけると、アクチンフィラメントや微小管が崩壊して細胞骨格として機能しなくなり、細胞は丸くなる。1気圧(0.1 MPa)に戻すと、細胞骨格が回復し始める(西山研(京大)との共同研究)。この過程ではアクチンは再重合が可能であり、仮足を再び伸ばし始める。この過程はアクチン変異体を発現するプラスミドの存在下では異なることが分かった。 チロシン143をイソロイシンに変異させたアクチンを発現させるプラスミドを粘菌に導入すると、細胞膜が脆弱となり風船のような膨大部が現れ、細胞は破裂する。またチロシン143をフェニルアラニンに変異させたプラスミドを導入した粘菌細胞は、加圧によって丸くなった細胞がその後、細長い髭状の突起を多数出すことも分かり、GFP融合アクチンを発現させるとこの髭が良く光ることから、突起の主な構成要素はアクチンであることが分かった。 細胞性粘菌は低浸透圧溶液で生育するので、浸透圧により侵入してくる水を排除するための機構として収縮胞をもっている。この収縮胞は加圧によって観察しにくくなり、1気圧に戻した場合に徐々に回復してくる。この収縮胞の回復過程も変異アクチン発現プラスミッドの導入により、影響を受けることが分かった。収縮胞の周りには蛍光アクチンは観察されないので、その影響は間接的であることが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
変異体の選別法としての、(1)飢餓誘導性分化過程の観察法、(2)蛍光法による重合過程の観察法の確立に成功し、アクチンのDNaseIループ(Dループ)の機能的変異体、疎水性へリックスの機能的変異体を得られた。後者の変異体では細胞移動速度が低下しており、ミオシンとの相互作用部位が変化していることが予想される。これらの方法を使って更に新しいアクチン機能変異体を探索する。 4種類の変異体アクチンの結晶解析が高分解能で進行しており(1.8 A --- 2.0 A 分解能)、その進行に対応した野生型アクチンの高分解能解析を行い、詳しい比較を行えるようにする。 粘菌細胞に60-100 MPa の高圧をかけると、アクチンフィラメントや微小管が崩壊して細胞骨格としての機能しなくなり、細胞は丸くなる。1気圧(0.1 MPa)に戻すと、細胞骨格が回復し始める(西山研(京大)との共同研究)ことが分かったので、細胞観察にも力を注ぐ。これまで、産総研(加藤研)と共同して高コントラスト位相差顕微鏡観察を行い、高圧をかける前と後での細胞観察を行い、細胞内の様子が詳しく分かるようになった。この顕微鏡では特殊な位相板を用いて高コントラスト化を行っているので、加圧中の観察は出来ない。しかし京大(西山研)の高圧顕微鏡では加圧中の位相差顕微鏡観察(対物レンズx100)が可能である。これら2種の特殊光学顕微鏡の観察を結びつけるために、当研究室では対物レンズx100の位相差顕微鏡と西山研から借用した加圧装置を用いて、加圧前と減圧後2分後以降の観察が出来るようになったので、3種の顕微鏡観察を総合して、加圧後常圧に戻した際のアクチン重合と細胞形態変化を追跡する。この観察の際には、アクチンを同定するためにGFP融合変異アクチンのプラスミドを導入して蛍光を観察する。収縮胞の同定にも蛍光アクチンは役立っている。
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