研究概要 |
線虫精子は、MSP(Major Sperm Protein)と呼ばれる独自の細胞骨格タンパク質を用いてアメーバ運動を行う。線虫精子にはアクチンやミオシンなどのよく知られた細胞骨格タンパク質は存在せず、細胞の動きはMSPを中心とした一連のタンパク質(MSPマシナリーと呼ぶ)によって生み出されるが、その分子機構はまだ謎に包まれている。 MSPマシナリーは、MSP線維メッシュワークからなる構造体である。そのため、その分子機構を理解するには、構成単位であるMSP線維の構造やダイナミクスを明らかにしなければならない。これまでの電子顕微鏡の結果から、MSP線維の平均長は1 m以下であり、光学顕微鏡での観察には不可能であった。そこで本年度は、当初の計画通り、nmオーダで構造解析が可能な高速AFMによるMSP線維の直接観察を試みた。 実験手順として、まずアミノシランで表面を修飾した雲母片の上に、5 %の細胞破砕液(1 mM ATP, 1 mM バナジン酸ナトリウム)を滴下し、数分間静置させ、MSP線維を雲母表面に吸着させた。その後、基板表面を1 m×1 mの領域で走査していき、線維状の構造が観察されるか検証した。その結果、一視野に約5本程度の線維状の構造体が観察された。今回観察した合計245本の線維の長さと高さ(太さ)の測定を行ったところ、それぞれ205 nm、9.2 nmとなった。これまで、MSP線維の太さは11 nmだと報告されており、今回の結果は妥当な数字だと考えられた。一方長さの方は、同様な方法で作成した電子顕微鏡画像から、477 nm(212本)となり、AFMの結果と多少の違いが見られた。
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