研究領域 | 運動超分子マシナリーが織りなす調和と多様性 |
研究課題/領域番号 |
25117529
|
研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
|
研究機関 | 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究 |
研究代表者 |
野口 立彦 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究, 医学教育部医学科進学課程, 助教 (30443005)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 精子 / 鞭毛 / オルガネラ / 多様性 |
研究概要 |
平成25年度においては、特にショウジョウバエ属の長大な精子の運動性について研究を進めた。ショウジョウバエ属の精子は種によって長さが大きく異なり、最小で300ミクロン、最大で6センチに達するものがある。雌の体内には受精嚢と呼ばれる長い管がある。受精嚢の長さは同種の精子の長さと同程度である。交尾後、精子はらせん運動をしながら一旦受精嚢に入り、雌の排卵時に何科の刺激で活性化し受精嚢から出て卵を受精すると考えられている。受精嚢は直径が15ミクロン程度で複雑に屈曲しており、いわゆる遊泳では移動できない。精子は培養液中に出すと、受精嚢の管直径より遙かに大きならせんを巻き、運動も部分的で協調的な遊泳運動を示さない。長大な精子が受精嚢に出入りするメカニズムを解明するために、ゲノムプロジェクトが行われた12種のショウジョウバエについて雌の受精嚢の構造について組織学的解析を行った。長さのスケールの違いにもかかわらず、共通点としては管の内腔はキチン質によってつぶれないよう補強されていること、一方で周囲には筋肉様のアクチン構造が覆っていることが判明した。腹部より取り出すと、全体が激しく蠕動運動らしき運動を起こすことが判明した。また、受精嚢には腹部神経節から子宮側面を経由して運動神経か感覚神経、あるいはその両方とみられる神経線維が伸びていることも判明した。つまり、長い精子の受精嚢への出入りには、精子の運動だけではなく雌の受精嚢の積極的な働きかけがあると予想される。これは、体内受精において多様性を極める精子と雌の生殖器が進化した背景の一因かもしれない。 現在は、作成した細いガラス管内での精子の遊泳パターン、単離した受精嚢内での精子の動き、雌の受精嚢内での精子の動きを腹側から生きたまま観察する系の開発に取り組んでいる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1)今年度は、in vitroでの精子の挙動を記録解析するのに必要な倒立顕微鏡の購入から始まり、当研究を遂行するために必要な下準備的な側面が大きかった。また精子の取り扱い等、技術的にも確立されていないことが多く試行錯誤が続いている。 2)ショウジョウバエ属の12種を安定して飼育するのに苦心しており、今も一部の種については、飼育が難しい状況が続いている。 3)ショウジョウバエの精子は非常に長いために取り扱いが大変難しく、その挙動観察の明確な結果を得られていない。今後は、生きた雌の体内という本来の環境での挙動解析に実験全体をシフトすることを考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
1)ショウジョウバエの長大な精子が、らせん運動しながら細さが一定でない屈曲の多い管の中を移動できるのはなぜかを解明するため、人工的に加工し、細さや屈曲の曲率を変えたガラス管の中での挙動を観察する。また細い管の内外での精子の運動性の変化を記録する。これらを通し、細い管の中での精子移動のメカニズムをモデル化する。 2)運動性を持つ雌の受精嚢の機能解析。受精嚢の運動性は、子宮内の精子を積極的に取り込むためにあるのではないかいう仮説に基づき、雌の下腹部を開腹し観察可能にした状態で交尾させ、受精嚢とGFPラベルした精子の挙動を記録することで、体内受精における雌体内でのイベントをライブ観察することを試みる。また雌の子宮内に蛍光ビーズを注入して、受動的にしか動かない物体が、蠕動運動により受精嚢に取り込まれるかを検証する。またチャネルロドプシンを神経特異的に発現させた上で受精嚢に伸びる神経だけを光り刺激した場合に特有の運動を誘導できるかを検証する。 3)海産多毛類(ゴカイ類等)の精子形成と体内受精の機構:精子形態の最も劇的な変化は、水中での放卵放精型の受精様式から、体内受精への移行を境に起きたと考えられる。また体内受精の進化は水性から陸生へ移行するためには必須である。多毛類の一部の種では、精子嚢の雌への受け渡しが行われるようになり、節足動物の体内受精の始まりである可能性が考えられている。今年度はJAMBIO共同利用研究により筑波大学の下田臨海実験所にて、多毛類の精子・精嚢形成の観察と多様性の記述、雌の生殖器官の多様性の記述から研究に着手したいと考えている。 4)特殊な精子の運動観察:特に鞭毛軸糸を欠損するが運動性を持つカイミジンコの精子運動について基本的な記述を行う。
|