研究領域 | 翻訳後修飾によるシグナル伝達制御の分子基盤と疾患発症におけるその破綻 |
研究課題/領域番号 |
25117707
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
深田 吉孝 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (80165258)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | サーカディアンリズム / 生物時計 / 時計タンパク質 / タンパク質リン酸化 / 転写調節 |
研究概要 |
概日時計の分子的なリズム形成機構においては、時空間制御された時計タンパク質の多彩な翻訳後修飾が重要な役割を果している。本研究では、時計遺伝子の転写・翻訳を介した負のフィードバック機構の中心因子であるCLOCKとBMAL1の質的な日周変動の意義を明らかにすることを目指した。この転写・翻訳フィードバック機構にCaイオンの概日変動がいかに組み込まれているかを知るため、カルモジュリンキナーゼCaMKIIに着目した。CaMKII の阻害剤KN93は培養細胞におけるCLOCKのリン酸化レベルを低下させるとともに、CLOCKとBMAL1との相互作用を減弱させた。この時、一群の時計遺伝子の発現変動を調べた結果、CLOCKの標的遺伝子群のRNAレベルがKN93処理により著しく低下することを見出した。またKN93は、低濃度では細胞リズムを短周期化し、高濃度では細胞リズムを顕著に減弱することを明らかにした。また、共免疫沈降実験においてCaMKIIはCLOCKを含むタンパク質複合体の構成因子であることを見出し、生化学的解析からCaMKIIがCLOCKをリン酸化することを確認した。これら分子解析のデータをもとに、CaMKIIの概日時計における役割を個体レベルで明らかにするため、CaMKII-alphaの活性欠損マウスの輪回し行動リズムを解析した。その結果、行動の開始時刻と停止時刻が互いに徐々にずれて広がってゆき、最終的にはリズム性を失う個体が観察された。興味深いことに、この変異マウスの時計中枢である視交叉上核において、個々の細胞時計は振動しているものの、神経ネットワークに異常が見られ、全体としては相互同調しないリズムを刻むことがわかった。また左右一対のSCNでのリズム位相の解離が見られたことから、CaMKIIはSCNにおけるカップリングに重要な役割を担うことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究プロジェクトは、CLOCKをリン酸化する酵素として新たに見出したCaMKIIに焦点を絞り、この修飾シグナルの破綻がもたらすリズム異常の分子的な基盤の解明を目的としてスタートした。生化学的な解析においては、CaMKIIがCLOCKを含むタンパク質複合体の構成因子であり、CLOCKをリン酸化することを確認した。さらに、細胞レベルおよび個体レベルで、CaMKIIが約24時間周期のリズムを刻む上で必須な役割を担うことを明らかにした。驚いたことに、時計中枢である視交叉上核SCNの細胞間カップリングにおいて、CaMKIIはこれまで他の遺伝子で報告されたことがないような新しい機能を持つ可能性を発見した。今後、このCaMKIIの活性変異マウスをモデル生物として脳の高次機能に迫る応用的な研究への展開も期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、CaMKIIの活性変異マウスを用いた研究を展開するとともに、時計遺伝子E4bp4の欠損マウスを軸に、転写抑制因子E4BP4と拮抗的な作用を持つ転写活性化因子DBPの機能解析を進める。DBPやE4BP4が結合するDNA配列D-boxの機能リズムの制御分子メカニズムと病態との接点に迫る。
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