研究領域 | 翻訳後修飾によるシグナル伝達制御の分子基盤と疾患発症におけるその破綻 |
研究課題/領域番号 |
25117712
|
研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
久保田 浩行 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 研究員 (40376603)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | システム生物学 / インスリン / 数理モデル |
研究概要 |
本研究は、インスリン入力パターンの情報のリン酸化修飾を介した代謝経路への伝達様式を、生化学反応モデルを作成することで明らかにすることを目的としている。そこで、本研究ではリン酸化プロテオミクスとメタボロミクス解析で得られた多階層にまたがるネットワークデータを用いて、その伝達様式を明らかにしようと試みた。この過程で問題になったのが、複数の代謝酵素における機能未知のリン酸化の問題である。生化学反応モデルを構築するためには、そのリン酸化の酵素活性に対する効果が分からなければならない。そこでこの問題を解決するために、酵素活性に対する機能未知のリン酸化の役割を酵素活性に対して「正」「負」「中立(無関係)」という3つの場合を考え、それぞれに対して生化学反応モデルを作成した。そして、「リン酸化の効果を正しく推定できたモデルは実験データをより再現できる」という仮定の下、機能未知リン酸化の役割の推定を行った。これにより、通常、実験を行うまで全く不明であった「機能未知リン酸化」の役割を推定することができた。この方法は、変異体作成やリン酸化抗体作成の際の候補の選定(一次スクリーニング)として使用できると期待される。また、通常は細胞内でのリン酸化や複数のアロステリック作用の酵素活性に対する寄与率を測定することはほぼ不可能であるが、モデルからこれらの分子を一つずつ除き、その効果をモデルで計算し、推定することを可能にした。上記の研究の結果、「インスリンの入力パターン情報がリン酸化修飾を介してどのように代謝経路への伝達されるか?」という問題を解決するための生化学反応モデル構築の土台を作成することができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、インスリン入力パターンの情報のリン酸化修飾を介した代謝経路への伝達様式を、生化学反応モデルを作成することで明らかにすることを目的としている。平成25年度までに、「研究実績」で説明したような本研究目的達成のための土台を作成することができた。さらに、上記手法を検証するための、検証実験にも取り組み始めている。また、上記研究内容を論文にまとめ、論文投稿準備中である。このように、本研究は順調に進展していると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
まずは、前年度に作成した代謝酵素の機能未知のリン酸化の「機能」と「寄与」を推定する方法の検証を行う。実際には、代謝酵素の機能未知のリン酸化部位をアスパラギン酸やグルタミン酸に置換することでリン酸化変異を模した変異体を作成し、in vitroで酵素活性を測定することで評価を行う。その後、予測が正しいようなら、作成したモデルを以前作成したAKTモデルと結合することで、インスリン刺激から代謝物変動を表現するモデルを作成する。次に作成したモデルを用いて、インスリンの入力パターンの情報がどのようにリン酸化修飾を介して中心炭素代謝経路の代謝物質を制御しているのかを、実験とモデルを用いて明らかにする。予測が異なる場合には、得られた実験結果をモデルにフィードバックし、モデルの再構築を行う。その後、作成し直したモデルを用いて、インスリンの入力パターンの情報がどのようにリン酸化修飾を介して中心炭素代謝経路の代謝物質を制御しているのかを、実験とモデルを用いて明らかにする。
|