公募研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
これまでに申請者は,リン酸基を特異的に捕捉する亜鉛錯体(フォスタグ)をクロマト担体であるアガロースビーズに固定化させた分離剤を開発している。しかしながらこの分離剤は,迅速性と簡便性の点で課題を残していた。本研究では,迅速性や簡便性において特に優れたマグネット技術とフォスタグ技術を融合させることで従来の課題を解決する。当該年度では,市販の磁気ビーズを導入した新規誘導体の合成とその機能性の検証を試みた。以下に研究の成果を列記する。1)最適な合成法の検証,固定化させるフォスタグ量の最適化検証:一級アミノ基を1つ持つフォスタグ誘導体にGE社製のMag Sepharoseを導入した。このMag Sepharoseは,カルボキシル基末端が活性化したNHS基をもつので,アミド結合を介して効率よくフォスタグを固定化させることができた。残存するNHS活性化基は,トリスヒドロキシメチルアミノメタンと反応させることで取り除いた。その後,酢酸亜鉛を加え,フォスタグ配位子に亜鉛イオンを配位させることでフォスタグ磁気ビーズを得た。この磁気ビーズのフォスタグ固定化量は8 μmol/ ml-beads で,フェニルリン酸による結合部位は4 μmol/ml-beadsであった。2)低分子量リン酸化生体分子の分離精製:上記の新規誘導体を利用することで,様々な生体分子(ペプチド,アミノ酸,核酸など)が分離精製できるか検討した。その結果,この磁気ビーズは酸性条件で不安定なリン酸化生体分子にも用いることができるとわかった。3)リン酸化ペプチドの分離:タンパク質のトリプシン消化物の中からリン酸化ペプチドのみを分離精製できるか調べた。その結果,フォスタグ磁気ビーズは消化されたペプチド混合物中から,特異的なリン酸化ペプチドのみを高い回収率で分取できることがわかった。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定通り,当該年度において,リン酸基を特異的に認識する機能性分子,フォスタグを固定化させた新規のフォスタグ磁気ビーズを開発することができた。この磁気ビーズを利用して当初の計画通りに検討を行った結果,次の様な特徴を示すことを明らかにすることができた。1)低分子量のリン酸化生体分子を選択的に分離精製できる,2)リン酸化生体分子の回収率が高い,3)すべての操作を中性条件下で行うことができる,4)操作時間が短い (12分以内), 5)少なくとも15回の再利用ができる,6)少なくとも6ヶ月の保存が可能である。このように,当該年度で開発することができた新規のフォスタグ磁気ビーズを用いたリン酸化生体分子の分離精製法が,今後のリン酸化プロテオミクス,メタボロミクス研究の発展に大きく貢献することが期待できたため。
今後は,このフォスタグ磁気ビーズを利用することで,細胞内において様々なリン酸化状態で混在するリン酸化タンパク質群を,それらの分子量情報を失わずに分取・濃縮するための簡便・高効率,かつ,高精度なアッセイ法を確立する。これを達成することで「トップダウンリン酸化プロテオミクス」を指向した分析技術を創出しする。高効率,かつ,高精度に分離,検出された疾患関連タンパク質群の情報が,創薬やオーダーメード等の先進的医療に寄与することを証明していきたい。
すべて 2014 2013 その他
すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 8件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (19件) (うち招待講演 4件) 備考 (2件)
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